るろけん最強キャラ

 

 ドンキーホームに戻ってくる頃には、空は赤く染まり始めていた。


 「錫乃介は何処に寝泊まりしてるんだい?」

 「今んところは裏のゲルだな」

 「テント買うか、長期契約でもしたら?」


 そうだな〜と少し考える。テントは安く済むだろうが、あくまで臨時の物に過ぎない。疲れは取れないし、体も伸ばせないし、夜の寒さも防げない。どう考えてもこの街にしばらく滞在しなければならない事を考えると、長期間の慣れないテント生活ははっきりいって身体を壊しかねない。


 「うん、ゲルのジジィに金を落とすのは癪に触るが、背に腹はかえられぬ」

 「ま、テント買うならバーンに相談しなよ」

 「おうよ、そんじゃ、また明…「あ、一つ言い忘れてた。君は買い物する時に値段交渉とかしないでしょ」

 「まぁ俺だけじゃなく、俺の時代というか国は日常的に買う物は殆ど定価ってものがあって、一々交渉なんてしなかったな。国によってはそんなことないんだろうが」

 「この時代は、どこでも交渉ありきだよ。だから1番高い電脳なんて買わされるなんて、マヌケな事するんだ」

 「何も言い返せねぇよ」

 「まずは相場の半額をこっちからふっかけなきゃ。どうせ、相手の言い値で買ったりしてたんでしょ?」

 「わっかるぅ?それも電脳の力かな?」

 「何言ってんの。そのアホ面は警戒心の無さがダダ漏れだよ。今まで会った人みんなわかってると思うよ」

 「チキショウ…」

 「そんじゃまたね」

 「おう、また明日」


 別れを済ますと、老人が住んでいるゲルに向かった。


 「ごめんよ」

 「なんじゃ、まだこの街におったんか。てっきりスチームとどっか行ったのかと思っとったわ」



 ゲルの中では老人がトルココーヒーを飲んでいた。



 「いや、しばらくこの街に滞在することになってな。そこで相談なんだが…」



 と、そこまで言ってさっき言われたことを思い出す。


 1泊30cだから30日で900、半分とすると450cか。ヨシッ!


 と、ここまで0.2秒で考えた。大した計算ではない。


 「長期契約1ヶ月をお願いしたい。450cでどうだ」


 すると、老人はニヤっと笑った。


 「少しは勉強してきたようじゃな。良かろう、本来なら600と言いたいところじゃが、ご褒美に500で手を打ってやろうかの」

 「それも、サービスしましたって思わせるためだろ」

 「当たり前じゃ、うちは本来1泊25cじゃ」

 「クソが!」

 「まだまだじゃな。ワシはゲオルグという」

 「ドルジじゃねーのかよ!俺は錫乃介だ!」

 「ドルジはワシのご先祖が好きだったレスラーの名前じゃ。んじゃ、よろしくの」

 「ん、宜しく」


 相手の方がまだまだ上手だったが、ともかく今までよりは安く泊まれるし、自分の城はできたことで、少し安心した錫乃介は昨日泊まったゲルを借りた。



 残金797c



 あ〜なんか、この街の奴らにはうまくやり込まれてるよな〜。でも警戒心ったって、安心安全国家の日本で暮らしてたらそうなるよな。こんなん俺だけじゃねーって。あ〜しかし、金どんどん減ってくなぁ。贅沢はできんし、屋台でも行くか。



 アスファルトの街では自炊の文化は殆どないので、大概の人は外食になる。そのため、様々な屋台や店がハンターマーケットの隣に数多く出店している。錫乃介は元々外食が趣味だったので、この光景は楽しくてしょうがない。



 あれは焼鳥、ここはタコス的なもの、あそこはビーフンかな?うぉっとラーメンっぽいのあるじゃーん。7cか、これにしよう。



 つるっぱげの頭になんかの模様のタトゥーを入れた白シャツの細いあんちゃんが店主のようだ。



 「さーせん、これラーメン?」

 「いや、ローメンだ」

 「ローメン?聞いたこと無いな」

 「たぶんウチだけだ。なんでもスクラッチ前にヒイヒイ爺さんだかが住んでた地域のローカルグルメだからな。秘伝の味だぜ!」

 「へぇ〜、んじゃそれ一つ」

 「あいよ!」



 っと出てきたローメンを手に店の前に無造作に置かれている席に着く。脚立が椅子がわりでテーブルはドラム缶だ。



 パンクだね〜

 ローメンって見た目なんか焼きそばとラーメンを合わせたような感じだな。

 うん、美味いな。麺が太めで炒めちゃんぽんみたいな感じだけど、味は焼きそばの様な、ラーメンのような。キャベツともやしが沢山入っていて、ボリューム感ある。

 あ〜ビール飲みてぇけど我慢すっか〜



 腹ごなしをした錫乃介は、サウナに行って汗を流し、早めの就寝をすることにした。



 残金785c



 次の日、錫乃介はドンキーホームに出勤すると、最初の仕事は奥の作業場で銃器の手入れをする事だった。

 銃器の手入れなんて今までもちろんやったこと無いが、ナビのおかげでスムーズにやることができた。それを見たバーンは錫乃介に任せることにした。



 「ご飯とか休憩する時は言って下さいね」

 「はーい」



 銃身拭いて、グリスをさすなど、拳銃やライフルなどはちゃんと解体してやらなければならない。

 初めてやったが、錫乃介は本物の様々な銃器を触れる事ができて、かなり興奮気味だった。



 すげぇ、それAKだよな〜あれなんかデザートイーグルだし。このボルトアクションライフルなんて、骨董品じゃねーか!ロマンだね〜!


 “そのボルトアクションライフルはモシン・ナガンM1891です。WW2前のものですから、まさに骨董品ですね”


 ってことはソ連産か!

 こっちのフォルムが美しいライフルは?


 “M1ガーランドです。1936年旧アメリカ合衆国で正式採用された半自動小銃です”


 もう、宝の山だなここは!


 こんな感じでナビとキャッキャしてやっていたら、


 「錫乃介さーん、いつまでやってるんですか〜もう店終いですよ〜」



 あっという間に日が暮れていた。

 バーンに呼ばれるまで飯はおろか休憩も取らずにいたらしい。



 おおぅ、もう1日終わりかよ!早ぇー!

この仕事一生できそうだわ!



 「それじゃあ、事務所寄って給料もらって上がって下さい」

 「やったぁ!お金だぁ!でも、あの扉はおっくうだなぁ」

 「錫乃介さん、一応スタッフになったので教えておきますが、壁のところにカバーがあって、その中のボタンでドア開きますから」

 「なーーーにーーーー!」

 「ほら、防犯ですから」


 怒鳴りつけたくなったが、まぁ、そういう事もあるかと、事務所に向かった。


 ドアの右の壁に2歩ほど離れたところにカバーがあった。成る程これならドアと関係無さそうだ、と思いながらカバーを開けボタンを押すと、パカっと床が開いて下に落ちた。


 ドサッ!


 イタタタッ!


 いったい…?


 落ちた?


 What?


 何これ、騙された?


 尻餅をついて、わけが分からず動転していると、バーンがやってきた。


 「錫乃介さん、右側のボタンじゃなくて、左側です」

 「おめー絶対わざと言わなかったろ!」

 「いえいえ、私にとって日常になってしまった事でしたので、失念しておりました」

 「うそくせーー!」


 ケツの穴に特製炸裂弾だけじゃなく、ダイナマイトもセットにしてやることが、今の瞬間決定した錫乃介であった。

 気を取り直してもう一度事務所の前に行き、最大限辺りを見回しながら、左側のカバーのボタンを押す。


 プシュー


 という音がして鋼鉄製のドアが開いた。ようやく中に入るとカウンターでトーキングヘッドがデスクワークをしていた。


 「お疲れ様。やけに遅かったね。就業時間は過ぎてるよ」

 「おかげさまで。まんまとトラップに引っかかってたんだよ」

 「あの落とし穴の?引っかかって落ちたのきみが初めてだね。ようやくあのトラップに存在意義が出来たよ」

 「俺を落とすのが、存在意義か。随分不孝な星の元に生まれたトラップだな」

 「それもそうだね。たまには落ちてあげなよ」

 「ああ、気分が向いたらな。なんでだよ。それはいいから、給料を取りに来たんだ」

 「はい、じゃあこれね。お疲れ様でした」



 トーキングヘッドが持っていたデバイスに提示された金額は10cだった。



 「え?いや、これ…」

 「だから、ちゃんと警戒心持たなきゃダメって言ったでしょ?給与交渉もしないで働きはじめるんだもん」

 「た、確かにそうだが…」

 「ま、そういう事だから、今後は気を付けなよ、これが本当のお給料ね」



 と、提示された金額は100cだった。



 「す、すまねぇ」


 錫乃介は今までのエシャロット採取の倍の金額に少し動揺してしまった。


 「そんじゃ、また明日ね」

 「お、おう」


 といいながら、明日もいいのか!と内心小躍りしていた。



 残金885c





 暗くなってき夜道、昨日と同様屋台の方面に足を運び、お店を見ていく。



 きょ、う、は、何に、しよっ、かな!


 思わぬ高給にテンションが上がりっぱなしである。



 おぉーこれは、鳥モモ1枚揚げてワイルドライスのピラフの上に載せただけのクッソ雑な料理。これにしよう。


 これに卵とビーフン炒め物にビールを合わせて20c


 ずいぶん奮発しちゃったなぁ!大豪遊だ!



 初日の一食に100c使ったことと比べれば、なんて事ないし今日はまだ1食目だ、と内心思いながら真っ黒な米のピラフをかき込む。脂ギッシュだが、プチプチした食感がたまらない。

 そして塩しか下味を付けてない鳥モモの一枚肉にカブリつき、ビールで流し込む。

 ビーフンと卵の炒めものは酸味が効いた味付けで、ナンプラーの様な味がする。



 なんだろ魚醤じゃ無いな、香りが違う。肉醤だな。味にパンチがある。酸味は果実酢か、たまらんな。



 その後サウナに行き汗を流して、ゲルに戻って就寝した。



 残金860c



 次の日のドンキーホームは倉庫整理だった。倉庫といっても、店内が倉庫みたいなもので、雑然と置いてある物を、少しでもいいからジャンル別にしていく作業だった。

 作業をしているとバーンに声をかけられた。


 「昨日はずっと銃器の整備していたから、こういう体動かす方が良いかと思ってましたが、どうですか?」


 へぇ〜少しは気遣いしてくれんだ。月岡製炸裂弾からダイナマイトだけにしてやろうかな?


 「いや、そんな事無いですよ。銃器整備すごい楽しいですから。ずっとやってられますよ」

 「それじゃあ、午後からは銃器整備します?」

 「いいんですか?しますします」

 「ええ、むしろ銃器整備は私1人だけの時は接客があるため進まないんですよ。やってくれるとありがたいわけです」



 というわけで、近くの屋台で買ったタコスを食べながら休憩してその後銃器整備にとりかかった。



 へへ、これレバーアクションライフルだぜ、西部劇かよ。


 “ウィンチェスターライフルM1866通称イエローボーイ仰る通り西部劇の遺物と言っていいでしょう”


 このでっかいのなんだろう?


 “ホ式13ミリ連装機関砲。対空砲火仕様ですね”


 ホ式ってことはメイドインジャパンか!しかも、大日本帝国‼︎



 こうして作業場で銃器の整備をしながらキャッキャして、終わったら屋台でビールとその日の気分で好きな飯を食い、サウナに入って就寝という錫乃介にとって充実した日々が続き、この世界に飛ばされて来てから10日が経ったある日、事務所ではバーンとトーキングヘッドが話していた。



 「彼どうだい?」

 「一心不乱にやたらと楽しそうに銃器の整備をしています」

 「サボったりは?」

 「全く、むしろ言わないと休憩もとりません」

 「…作業は電脳があるから出来るとしても、楽しそうにというのは本人の資質だな。銃器が好きなのかな?だと、すると安い買い物だ」

 「いくらで雇ったのですか?」

 「100c」

 「ヤッス!」

 「だって、最初はそんなもんでしょ」

 「確かにそうですね。でもこれだけ何でもかんでも銃器の整備ができて、しかもサボりもせずに率先してやってるとなると、もっとしますよね?」

 「だろうね、3倍は硬いね。ま、まだ入ったばかりだから、少し様子みてよ。裏があるような人物だとは思わないけど」

 「珍しく目をかけますね?」

 「だって2020年から来たんだよ。興味深いったらありゃしない」

 「2020年⁉︎そんなバカな。口から出まかせじゃ」

 「そんな嘘つける程、器用で頭良さそうにみえる?彼が」

 「いえ、全く」

 「間違いなく本当だよ、彼は」



 裏はなくは無い。密かにバーンのケツの穴を爆破しようとしているのだから。

 そんなディスられている錫乃介が、その日帰る時トーキングヘッドに呼び止められた。



 「休み?」

 「休みくらいあるさ」

 「そりゃそうだわな」

 「三日間休みだから宜しく」



 そんなわけで次の日、休日の朝が訪れた。収入が無いのはまずいので、ここ数日行ってなかったハンターユニオンに行くことにした。



 残金1150c

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