どどどどどどどど、童貞ちゃうわ!

ほうほうの体で街に戻ることができた錫乃介は、空腹を我慢しながらハンターユニオンへ向かった。


「あ、あなたは、どうしたんですか?なんかヨレヨレですけど」


中に入るとエミリンに声をかけられた。


「巨大なタコに追いかけられて、このザマよ」


それを、聞いたウララは答える


「タコってフライングオクトパスね」

「さっきデザートスチームが大砲撃った音が聞こえたけど、それだったんだ。」

「すぐ、後ろまで迫られて、もうダメかと思ったところで、大砲が撃たれて追い払われたんよ。あー死ぬかと思った〜」


それを聞いて2人はクスクス笑っていた。


「でも、助かって良かったじゃ無いですか。命が1番ですよ」

「間違いねぇ。あ、エミリン。それからウララ」

「なんですか?」

「昼間はごめんな。ダッチワイフって言ったの撤回する」


そう言うと2人は、え?という目をして、こちらを見ていた。


「言いたい事はそれだけよ。ちょっとエシャロット納品してくる。んじゃね!」


2人は去っていく錫乃介を見送りながら、


「ウララちゃん。あの人実はいい人なのかな?」

「駄目よエミリン。DV男って暴力振るった後はすぐに優しくするっていう、飴と鞭の使い分けが上手いんだから。典型的じゃない」

「そうよね、でもお詫びするって言っちゃったしなぁ」

「いいの。どうせ手も出せない意気地なしの童貞なんだから、終わり終わり」

「そうね〜"据え膳食わぬは〜"って知らないのかしら〜、これが最後のチャンスかも知れないのにね、キャハハ!」



そんな女子トークを繰り広げていた2人だが、タコから逃げるため身体機能強化のままだったため、聴力も強化されたままだった錫乃介の耳に届いていたことは、気付かないのであった。



あのアマども、好き勝手言いやがって。


ニヒルにフッと笑いながら、


ま、これでいっか。


少し自分に酔っていた。


リクエストカウンターでエシャロットの納品を終わらせ、報酬を手にした錫乃介は、しばし、立ちすくんだ。


あんな走り回って、下手すりゃあ死んでいたのに50cかよ。わかってたけど、割りに合わね〜な!明日は朝早くこなきゃな。


残金1,454c


矢破部さんに会って行くか、その前にユニオンのカフェバーでビールと軽食を頂くか、と行って見れば、アンシャンテと矢破部さんが話をしていた。


「どーもーただ今戻りました」

「あ、錫乃介さん。フライングオクトパスが錫乃介さんが向かった方角で出たって話を聞いて、気になってたんですよ」


いやいや大変でしたよと、アルミパイプの椅子に掛けながら錫乃介はひと息付く。

「アンシャンテさん、ビールと、えー、ピタパンこれにしよう」

「はい、かしこまりました」

「錫乃介さん遭遇したんですか?」

「ええ、後方100メートルくらいまで接近されて、もうダメかと思ったらところで、デザートスチームの艦砲射撃で、九死に一生を得ましたよ」

「危ないところでしたね、初めてのリクエスト、しかもワイルドエシャロット取りに行っただけで、トップクラスのデンジャラス機獣に遭遇なんて、運無いですよ」

「まぁ、助かったから、運が良いのかもしれないし、悪いのかね〜」


と話しているところにビールとピタパンが来た。

「お待たせしました〜」

「ありがとう」


グイッと一口ビールを流し込めば、ようやく生きた心地がした。

ピタパンを口にすると、何の肉かよくわからないが、細く裂いた肉とトマトがパンの中に大量に詰め込まれている。辛めのスパイシーなソースと中から溢れる肉汁とトマトの酸味が美味しい。


「ワイルドエシャロットは換金しましたか?」

「ええ、これだけ大変な思いして50cって、矢破部さんのいう通りでしたよ。割りに合わない事この上無い」

「いや、フライングオクトパスはだいぶレアケースですがね…」

「そうなんでしょうね、でも明日からはもっと割のいい仕事しますよ」

「そうして下さい。それ以外は大丈夫でしたか?」

「あ、そういえばタコで忘れてたけど、猫みたいな機獣に襲われましたよ。撃退しましたが」

「ああ、砂猫ですね」


本当の砂猫まんまの名前だった


「あれは売れるんですか?」

「あれは売るとこないですね、金属部も少ないですし、毛皮も小さい、肉も食べるとこ無いので…」

「持って帰らなくて良かったわ〜」

「そういったデータは是非端末から見て行って下さい」

「ええ、そうします。色々ありがとうございました」

「それから、錫乃介さん大変申し上げにくいんですが、ユニオンの年会費はどうしますか?もう少し後にしますか?」


…忘れてたよ。今払います。


ピタパン10c

ビール5c

年会費100c

残金1,339c


ピタパンを食べ終え支払いを終えた錫乃介は、ユニオンの端末を閲覧し、できる限りの情報を集めた。ナビがいるので、熟読する必要は無く、流し読みするだけで良い。小一時間でデータ全てを閲覧する事ができた。

その中にフライングオクトパスもいたが、危険度を示す星8個はトップクラスであった。

ちなみに砂猫は星1個だった。


そりゃそうだろうな。

ナビ記録できた?


「もちろんでございます。これでいつでも、機獣の名前や特徴、換金の有無がわかる様になりました」


よーし。

明日は早起きだ。


そう心に誓った錫乃介は思う


今日どこに泊まろ?

ぼったくるあのゲルはやだな。


とりあえず、街を散策するか。


受付嬢にまたな!と挨拶しハンターユニオンを出ると辺りは日が落ち始めていた。


居住区側に足をむけるが、廃車や廃トラックを家がわりにしてる者、テントや廃ビルの一角に住み込んでいる者、いかにも寄せ集めの健在で作ったバラック小屋、公衆トイレを家にしている者もいた。

ようやく見つけた小さなホテルっぽい建物は、立ちんぼのお姉ちゃんがワラワラいて入り辛いことこの上ない。ハンターも多く書き入れ時なのだろう。

掻き分けて宿泊料金の看板を見れば

"御泊まり50c"

"御休憩20c"

とあり、泊まったら今日の稼ぎから足がでる。

「お兄さーん」

と、甘い声をあちらこちらから掛けられる。試しにいくらだ?と聞いてみるが100cが相場だそうだ。今後のことを考えると、今は金銭的に余裕はない。


「今度めちゃくちゃにしてやんよ」


と小粋に返してその場を立ち去る。

残された嬢には、"ただの文無しね"とバレバレであったが。



他には宿なんてこの付近は無さそうだな。ダラダラ散策して見つからなかったら、またぼったくりにあっちまうし、もう時間がねぇな。

チィッ仕方ねぇ!



「やはり来たようじゃな」

「なんでぃ、わかってたのかよ」

「この辺りでワシんとこが1番安いんじゃ」

「畜生!30cで良いんだな!」

「毎度ありですじゃ」


残金1,309c


借りたゲルは4畳半程、3人も寝ればキツキツだろう。ま、一晩の宿としては悪くない。

ゴロンと横になりたかったが、身体が汗と砂まみれのままだ。そう言えばサウナがあるって事を思い出し、外に出てサウナへ向かった。


サウナは5cと安く、利用客が大勢いて、全身タトゥーの者、手足を機械化している者、目玉がゴーグルみたいになってる者と、様々であった。


知り合い同士と思われる者達は談笑しているが、気になるワードが出たので耳を傾けると、どうやら明日にはデザートスチームが移動するらしく、ハンターの仕事が増えそうだ、という話題だった。


明日は早起きだ、ナビ7:00には起こしてって、そんなことできるの?

"目覚まし時計がわりに使われるとは思いませんでした。些か不服ですが、構いません。どのような起こし方が良いですか?

筋肉ショック

シナプスショック

悪夢

おねしょ

夢精"


む、むせぃ…"普通に起こしますね。普通が1番です"


…。

何で聞いた?



冷水を浴びサウナに入るを繰り返して、サッパリとした錫乃介はゲルに戻り、ゴロンと横になった時にはもう寝入っていた。


こうして、錫乃介のドタバタな近未来世界生活2日目が幕をとじたのだった。


残金1,304c

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