囁くのよね、私のゴーストが
ユニオンを出た俺は、そのままマーケットに向かう事にした。ゴダイゴ銃砲店に寄るためだ。最初の情報源だし御礼しなきゃな。
「どーもー出世払いにきましたー!」
「ん、あぁ昨日の格闘家か、どうだ売れたか?」
「あぁ、結構良い値段で売れてね、挨拶と御礼を兼ねてね」
「随分早い出世だな。ちゃんと顔出すたぁ殊勝な心掛けだ」
「義理はかかすなってね親父の遺言なんだ。借金漬けの暴力野郎で、口だけは正論吐いて自分では一切実行できず人には強要するクソだったけどな。最後は酒の飲み過ぎで、風呂場で溺れて死んでた時は打ち上げ花火でお祝いしたぜ。
んで、これから街の外に出るんだけど、銃器を少し買ってこうかなって」
「ああ、良くある話かもしれんが、苦労してんだな。人間そうはなりたくねーな。おし!サービスしてやるから何でも買ってけ!」
適当こいただけでサービスしてくれるなんて、なんか良心痛むな。
「それにしても、昨日の丸腰からダブルバレルのソードオフショットガンなんて、どえらく進歩したじゃねーか。それ持ってるんだったら、後は何するかによるぜ。外には何しに行くんだ?」
「ワイルドエシャロットの採取だ」
「 なんだよ、ハントじゃないんなら、小銃は要らねーな。サブマシンガンとマチェットくらいで充分だろ、どうせバギーやバイクもねぇんだろ。あんまり持っても重くて邪魔なだけだ」
おっしゃる通りで。
「そんじゃあ、それお願いしやす!」
「はいよ、サブマシンガンったらこれだな」
そう言って取り出したのは、映画や漫画アニメなど、あらゆる創作物でみる短機関銃だった。
「ウージーってな基本設計は200年程前だが、その完成度の高さから今でも充分通用する。それからマチェットはこいつな。ステンレス鋼だからそう簡単には錆びねぇが、ちゃんと手入れしろよ。あと、弾薬つけて1,100cのところ1,000cだ、払えるか?」
「あたぼうよ、ほれ」
残金1,414c
アメリカじゃ拳銃が1〜5万円くらいで、ライフルなんかも5〜10万円くらいからって言うから、この値段は妥当なんだろうな。
「ありがとうよ!」
「そういやゴダイゴって大将の名前か?」
「いや、曾祖母ちゃんだかが好きだったグループの名前はだとよ」
やっぱ999だったか。
「大将はなんで言うんだ?」
「俺はテツローだ。鉄を扱ってるからピッタリだろ?」
やっぱ999か。
「もしかして、嫁さんの名前はメーテルか?」
「惜しいな、娘の名前だが、なんでわかんだ?」
999だよ、この一家。
「俺占い師の真似事もしてるんだよ。いろいろありがと!行くわ、早くしないと日が暮れちまう」
「おう、きーつけろや!また顔だせよ」
「あ、最初に話した俺の親父の話しね、口から出まかせだから、信じないでね。実際は物心つく前に両親離婚してっから、顔も知らねーんだ。サービスありがと。んじゃね〜」
「んなこともあろーかと価格は通常料金だよ、安心しな!」
チッ、向こうのが上手だったか。
舌打ちをしながら錫乃介はその場を去った。街を出る前にマーケット内で飲水(10c)を購入し件の場所へ向かった。
残金1,404c
ナビ
"はいお呼びでしょうか"
色々と聞きたいことがあるんだけどさ、ユニオンでの出来事は見てた?
"はい、錫乃介様が29歳10ヶ月まで童貞…そこ記録しなくていいからね、別に重要じゃないから。さっさと消去しておいて。
“ですが、我々の相互理解を深めるには重要な事項と存じます”
重要じゃないって言ったよね。童貞いつ捨てたとかさ、人間とって大事?ね?
もっと大事なことってあると思うんだよね。童貞だからってさ、そりゃすんごいイジられたしさ、馬鹿にされたしさ、「時には童貞の癖に何がわかる!」とか言って上司にキレられたこともあるよ。理不尽過ぎない?今からでも訴えてやろうかと思うくらいだよ。
でもさ、童貞捨てた後って、なんか妙に格好良くなったって言われるようになったんだよ。色気が出てきたとかも言われた。わかんないんだよ。自分ではさ。
“だいぶと人間形成に影響与えてるようですが…”
うるせー永井豪だって『ドロロン閻魔くん』書いた時童貞だったんだぞ!童貞が生み出すエロティズム舐めんじゃねーぞ!(噂です噂)
“めちゃくちゃ重要じゃないですか”
黙りねぃ!話が進まねーんだよ!
俺が聞きたいのはね、あのセクサロイドたちよ。えらい高性能でまるで反応が人間そのものだったけど、あれも宇宙人の技術の賜物かね?
"確認したわけではないので、100%ではありませんが、十中八九そうでしょう"
だよね、地雷とはいえなんで放置なんてされていたんだろう?見た目も良いのに。
"それはリアルを超えるヴァーチャルができてしまったからですよ。あのセクサロイド達はリアルに作っていますが、リアルに作り過ぎたため、人間の嫌なとこまで、不必要に再現されてしまっています"
あぁね。そういう事ね。
余計なとこまで作ってしまったのね。
"ですので、あのセクサロイド達はただのアンドロイドではありません。あの子達のAIは生体有機コンピュータでした"
電脳じゃなくて、本物の脳みそ使ったコンピュータってことか?
"いえ、生体有機コンピュータの本体は脳みそではなく、腸です"
チョーーウ?
"脳みそが動物の行動全般を支配しているのはご存知だと思いますが、その脳みそを支配しているのは"腸"だと言う考え方があります"
へぇーーー腸がぁ?
"脳移植の動物実験は過去には数多く報告されています。しかしその全てが、移植後の話が有耶無耶になっています"
そりゃ倫理とか社会的になんちゃらかんちゃらとかあるからだろ。
"であるなば、最初から脳移植した事実すら伏せられるはずです。しかし、実際は脳移植成功!までは報じられています。私の検索機能をフルに使っても、その後の情報は、"元気に生きている"や"術後の後遺症はない"という文字情報だけなんです。重要なのはそこからのはずなのに、流されています"
実際はその場では成功したかもしれないが、やっぱダメでしたわ、ってとこか。
"粘菌宇宙人の技術のうち、生体有機コンピュータを部分的にも理解できた、工学医学の天才がいました。彼がその技術を理解した時に1番驚いたのは、コンピュータのメインとなる臓器が"腸"であり、脳はサブであった事だと記録が残っています"
でもさ、コンピュータになる情報処理ってなら脳だけでも大丈夫じゃね?
"そこなんですよ。
脳だけで生体有機コンピュータを作ったとき、計算や情報処理をするコンピュータや、自律思考を含めたプログラム通りに動くロボットとして使用するなら問題ないんです。しかし、一個の生命体として活動させようとした時、"自我"ができなかったんです"
自我?つまりそれは、自分が自分であるということの自意識か。
"情報処理や計算ならば、はるかに桁違いで生体有機コンピュータより電脳の方が優秀です。しかしその電脳と生身の脳みそを組み合わせても、限りなく生命体に近い思考は持ちますが、自我は生まれませんでした。
自ら目的を持って何かに興味を持つ生命活動以外の行動、平たく言えば[趣味]とでも言いましょうか、[趣味]が生まれないんです。趣味とは個性とも言えることですよね。
そして、決定的だったのが、ただ漠然と生きる事が出来なかったんです”
漠然と生きる…か。
“人を含めた動物は、生きる理由は種族繁栄と維持、遺伝子を繋ぐためと言ってと過言ではありません。特定の人は、その足枷から放たれていますが、それは極々少数の話です。
動物達に聞いたわけではありませんが、人間を含めたある程度の知能を持った生物は、本能に赴くままの食欲性欲睡眠欲だけで行動が成り立っていると思いますか?”
いや…つまり、欲を満たす行動以外は漠然と生きている生物の方が多いと言いたいんだな?
“そうです。目的もなく漠然と生きる行動こそが自我の証と言ってもよいのでは?というのが最新の動物行動学や自我の研究の説なんです。自我が無いと、目的を与えられない限り漠然と生きる事が出来なかったんです”
漠然と生きるか…そんなのネガティブな方に受け取られそうだけど、むしろ高度な知的生物の証だったのか…?
人の脳の容量は1ペタあるっていうが、電脳は明らかにそれ以上だもんな。でも、自我は生まれない。自我ってなんだ?
"あのセクサロイド達は自我があります。自分を自分たらしめる自意識自覚があるんです。『攻○機動隊』風に言うのであれば…"
ゴーストがある、ってことか。
"そうです"
何?ゴーストの大元は脳じゃなく腸だったってこと?
"件の天才達もその証明はできませんでした。ただ、結果的に粘菌宇宙人達も理解していたのかどうかわかりませんが、腸をメインコンピュータにした場合、自我が生まれた実験結果だけは残っています"
ただの、消化器官じゃねえんだな、腸は。
"こんな記録があります。どんな治療をしても腸内環境が良くならずに入院していた患者に、腸内環境が良い人の細菌、早い話がウンコを移植したんだそうです"
ほう、食べ物からじゃなく、根本から治療しよってか?ウンコで?
"はい、腸内には約1兆の細菌がいるため、これの改善をしようという試みでした"
1兆かハリウッドザコシショウのネタ並みだな。んで、どうなった?
"腸内環境は改善して健康になりました"
ほぅ、良かったじゃないか、それがどうした?
"腸内環境を提供してくれた人に性格がそっくりになりました"
なんじゃそれ。俺らの性格って腸内細菌によるんか?
"1兆もいますからね、性格が形成されるのかもしれません。ですが、腸が無いと自我が生まれないっていう説を裏付ける結果ですよね、これは"
面白えじゃねぇか。面白えけどなんか背中が寒くなるな、俺の腹の中の細菌が俺の本体?じゃあ俺ってなんだって考えると恐くなるな。なんだろうな?
トボトボ歩きながら錫乃介はお腹に手を当てながら考える。この中にいるやつらに、自分というものが決められている?いやいや、俺は俺だろ。でも、それをどう証明するというのだ?と。
数秒数分数刻かはわからないが無言の時ができた後、錫乃介はナビに話しかける。
でもよ、聞こえるんだよね。
"何がですか?"
「そんなしょーも無い事考えてないで日銭を稼げ!」
って、俺のゴーストが囁く声がさ。
"それ、言ってみたかっただけですよね"
人生で中々言えるセリフじゃねえからな。
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