冒険者ギルドの洗礼
「私このハンターユニオンの支部長代理補佐の矢破部と申します。失礼、ウララ!エミリン!裏で再起動してきなさい!」
「なんで!悪いのはその男!エミリンをやり捨てしたその変態童貞虚言癖なのに!」
やり捨てして童貞とはこれ如何に?
ヤハベさんね、名前が際どいな。
40代くらいの線が細い男だが、おそらくしなやかな筋肉に身を包んでいるのだろう。雰囲気からして強者っぽい。
「矢破部さん?俺ねあのメイド達にいきなり絡まれたんですよ。"私の事捨てるのね!"って。こちとら初対面だっての」
「いやはや何とも、ここのところ大人しかったので、安心していたのですが。お詫びに一杯ご馳走しますよ。2人とも早く再起動しなさい!」
今日はよく誘われる日だな。
「お、良いんですか?んじゃあ、お言葉に甘えて」
「どうぞこちらへ」
一杯飲めるなら全てを許せる俺の心はマジ大海原。
ホールの右手の通路に行くと、そこにはアルミパイプの机や椅子が置かれている広間が見えた。
「ここでは軽食とお酒が飲めて、ハンター達の集会室でもあります」
窓際の席に座ると、アニメ調の顔した今度は赤髪ツインテールのウエイトレスロボがやって来たことで、おれは少し身構えた。
「なんになさいますか?」
「ビールでよろしいですね」
「もちろん」
「ビール2つとブルスケッタね」
「かしこまりました」
「アンシャンテ、2人の様子も見てきて、再起動してなかったら力尽くで再起動してきて」
「お任せ下さい」
「そんなに構えなくても、あの子は大丈夫ですよ」多分
「今たぶんって付け加えたよね。あれほんとにダッチワイフなんですか?」
「ええ、そうです。なんせそれしか機能ありませんから、昔はすぐ飽きられて投棄されていたんでしょうね。数台まとめて格安で売られていたのを、自律AIが入っているので来客応対くらいは出来るだろうと購入したんですが」
「まぁ、投棄されていたのには訳があって、地雷女だったと」
「お恥ずかしい、エミリンは特に酷くて」
「ウララもなかなかのキリングフィールドだと思うぞ。アンシャンテってのか、あの子は今のところ大丈夫そうですがね」
矢破部さんと話していると、ビールとつまみを持ったアンシャンテがやってきた。
「矢破部様、エミリン、ウララ共に再起動終わって正常に戻りました」
テーブルに置きながらそう伝えていた。
「ん、じゃあ勤務に戻るように」
「かしこまりました」
「さ、どうぞ飲んで下さい」
「ありがとうございます。あ、自己紹介遅れましたらが、錫乃介って言います」
と言ってからビールを飲み始めた。
うん、ラガーだねなかなか良いスッキリしてなかなか良い苦味だよこれ。
ブルスケッタはクリームチーズと謎の肉のリエットね。お洒落じゃん。
「ところでハンターユニオンにはどういったご用件で」
「やっと本筋に戻せる。いやね、ハンターの仕事ってどういうものか、俺にもできるのかとか聞きたかっただけなんですよ」
「そういう事でしたら、私に聞いて下さい。何でもお応えできますよ」
「初歩的なことを聞きますけど、ハンターって、何?外で獲物を狩ってきてるってことですか?」
「基本的にはそうです。外で採取活動をしたり、時には街の防衛任務にあたることもあります」
「防衛って山賊でもいるんですか?」
「ええ、野盗の類いもいますが、何より
成る程ね、モンスターみたいな奴らがいる世界だったか。街の外から俺がきた時は特に居なかったな。偶々か?
「俺、街の外から来たんですけど、機獣には遭いませんでしたね。運かな?」
「それは運もあるでしょうが、サンドスチームが来ているのが1番でしょう」
「あの馬鹿でかい船ですか?」
「はい、あの船は凄まじい火力を持ち、轟音と地響きで走るものですから、辺り一帯からは暫くの間機獣が居なくなる傾向があるんです。ですから、サンドスチームが来ている時はハンターの休暇ってことですね」
サンドスチームの側に転送されたのは不幸中の幸いだったんだな。二日酔いの丸腰で気絶したままで機獣の彷徨く所だったら、即死亡の無理ゲーだわ。機獣がどんなモンスターか知らんけど。
「次の質問、ハンターになるには?」
「ハンターに資格はありません。自分でハントした獲物をマーケットで売ったり、自分のお店で使ったりしてる方は皆ハンターです。ここのユニオンで素材を売ったり、依頼を受けたり、賞金首の賞金を受け取ったり、その他、設備を利用するなら登録は必要です。年会費は100cですが」
「ユニオンが買取やってるんですか?」
「そうですね、食材とかでしたらマーケットでも売れますが、鉄屑や石油素材となりますと個人間では取引し辛いです」
そりゃそうだ
「錫乃介様はハンターになられますか?」
「そうですね無職だし、日銭を稼がなきゃならんので」
「でしたら、登録をされたらいかがですか?登録料は素材を売った代金から天引きもできます」
「そうだな、そうしますか」
「ありがとうございます」
場所を変えた俺達は登録受付カウンターにきた。
カウンターの中に入った矢破部は、"こちらに記入を"といってタブレットを差し出した。
性別、名前、生年月日、出身地、現住所、所属、か。
「あの〜すいませんが、訳あって自分のこと、性別と名前くらいしかわからないんですが」
「ええ、それだけで構いません。こんな世の中ですから、そういった方は沢山居られますから。生年月日なら自分で決めても良いですし、現住所はこの街でも構いませんよ」
「生年月日はじゃあ2135年2月27日と」
「これですと、錫乃介さんは20歳ということに…私と同じくらいに見えますが」
「やっぱ無理ある?」
「それにさっき、29歳10ヶ月って大声で童貞…「2115年でいいからさ。40歳ってことで。それで問題ないよね!もうこの話終わりね、はい、終わった」
「はぁ、ご記入ありがとうございます。これで登録は完了です。30分程で会員証が発行されますので、その間にリクエストの説明をしましょう。」
2人はリクエストの部屋へ移動した。室内にはまばらに数人のハンターがいる。
「ここでは左手の掲示板に毎日リクエストが掲示更新されます。その内容を見て受ける場合、こちらのカウンターへ持ってきて、今は居ませんがスタッフに出すと、依頼受理になります。朝から掲示がはじまりますので、昼頃までには割りの良い仕事から無くなっていきます」
「残っているのは、『ワイルドエシャロットの収穫2個で1c、1日100個まで買取ります。期日無期限』か。100個とって50cって報酬としてどうなの?」
「良くは無いです。ワイルドエシャロットはマーケットで通常1個1cなので、この依頼は相場より安く買うため駄目元で出してるんです」
「無期限だし、散歩がてらにはいいんじゃないの?」
「収穫には機獣の住処の街の外に行かなければなりません。今はサンドスチームが来てますから比較的安全かもしれませんが、平時に命かけて最大50cの仕事する、もの好きなハンターはいませんよ」
「俺これやるわ」
「かまいませんが、もの好きですね」
「もの好きなんで、ってかハンター修行ですよ。慣れるためにね」
そんな話しをしていると、側で聞いていたのか、赤髪のソフトモヒカンにして、迷彩のタンクトップとカーゴパンツを着た大男が、2人の取り巻きを連れてこちらに近付いて来た。
「何だおまえ、これからハンターになろうってが!笑っちまうな!こんなしょぼくれたおっさんがハンターデビューだってよ!丸腰で、本気か!」
何だこいつコマンドーかよ。
めちゃくちゃ強そうで恐えんだけど。
デコピン1発で負ける自信あるわ。
これはあれか、冒険者ギルドとかで受ける洗礼の近未来バージョンか。この後俺に真の力が覚醒して、こいつをのしちまうパターンか。
「本気も本気ですよ。なんせこちらは無職で明日が無いし、日銭を稼がなきゃならないんですから。
……。
いや、あのーお兄さんが気を悪くされるなら、なんか、力が覚醒しないし、ちょっと考え直そうかなって今思いました。本気ってさっき言ったの嘘です嘘。目障りな者は消えますから」
「まぁ、そういうなよオールドルーキー。ワイルドエシャロットを取りにいくんだろ。ここから2キロほど南に行ったとこにオアシスの名残がある、そこが群生地だ。今は機獣が少ないだろうが、丸腰は危険すぎる。俺のお下がりでお古だがこれ持ってけ。無いよりマシだ」
コマンドーがこちらに放り投げてきた物を、慌ててキャッチすると、それはダブルバレルのソードオフショットガンと弾薬のシェルであった。
「へ?」
「死ぬなよオールドルーキー!いくぞテメェら!」
「ほんっと、アニキはお節介っすね〜」
「あまりモンを押し付けただけだわ!」
「弾薬まであげてるじゃないですか〜」
そんな会話をしながら、コマンドーは取り巻きと共に消えていった。
「え?何あの人メッチャ良い人じゃね?貰っていいのこれ?」
「いいんですよ。あの人ユニオンでは、実力もありながら、世話焼きとしても有名なハンターでしてね、ラオウ山下さんって言うんですよ」
ラオウ山下!
なんか不釣り合いなネーミングだなぁ。
「早速ですが、ワイルドエシャロット取りに行くので、リクエストの受理お願いします」
「これのリクエストは常設なので、受理せずとも大丈夫ですよ」
「成る程、あとワイルドエシャロットってどんな物ですか?」
「そう言ったリクエストに関する情報はこちらの端末で確認できます。こんな感じで」
ほうほう、ワイルドエシャロットね。俺がこの世界に来た時引っこ抜いた草がそうか。確かに球根は食べられそうだったな。
「了解しました!それでは、行って参ります!」
「はい。では、これが会員証です。どうぞ命だけは大切に」
メタリックな会員証を受け取り、見送られながら建物の出入り口のあるホールへと出る。
あ、いるじゃん。ウララとエミリン。一応挨拶していくか…
「よう、さっきはボルテージMAXだったけど落ち着いたか?」
ちょっと煽ってみる。
「「先程は大変ご無礼を働き申し訳ございませんでした」」
2人揃って素直に謝りやがった。なんかやりづらいな。
「なんだよ、こっちも言いすぎたよ。ごめん」
「いえ、ウララちゃんも私もちゃんとした応対もせずに」
「ま、事故みたいなもんだったんだろ。水に流そうや」
「あの、その、お、お詫びに私で良ければ抱いて下さい
「OK今度味見するわ。じゃあな!」
その場から走り去りながら錫乃介は思う。
ヤハベさーん!あの子まだ治ってないよーー!
そして
だーれが、あんなキリングフィールド手をだすか!と。
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