第6話
宿を出てジョニーに着いていくと、保安官のオフィスまで連れてこられた。
ジョニーに続いて中に入る。
中に入るとイスに座って、ひとりの女性がおめおめと泣いていた。
見るに、二十歳もいかぬ年齢だろう。
おそらく、十七か十八といったところか。
その姿はどう見ても、嬉しくて泣いている、という訳では無いだろう。
どうやらジョニーの相談とやらは彼女に関係があるのだろう。
視線をその女性からジョニーへ移す。
俺の視線に気付きジョニーが話し出した。
「彼女はファニータ。両親を最近亡くして今は弟のセスと2人でこの町で暮らしているんだが…実は最近、その弟のセスが家出してな」
「…その弟を見つけろと?」
「いや、そうじゃあ無い。居場所はもうわかっているんだ。ここから北にしばらく行くと小さな町がある。そこにセスは居るはずだ」
なにか姉弟のトラブルがあって家出したとしても、居場所がわかって居ながら、これだけおめおめと泣くヤツは居ない。
なにやら厄介な理由がくっついているようだ。
「それで?」
俺はジョニーに続きを促した。
「セスと一緒に居る連中が少々問題があってな。チンピラ連中なんだよ」
チンピラ連中。どうやらこの辺りの悪党はチャールズ達だけでは無いようだ。
いつの世にも悪党というのは腐るほど居るものだ。
「なぜ連中のところにセスは?」
そうジョニーに訪ねた時に、今まで泣いているだけだったファニータが、ジョニーの代わりにその質問に答えるように話し出した。
「セスは自分から彼らのところに行ったんです。『こんな地味な生活はもう嫌だ』と言って、アウトローな生活に憧れて家を飛び出してしまったんです…!」
声を振るわしながらファニータはそう言った。
それにジョニーが苦々しい表情をしながら続ける。
「まあ、つまり弟を連れ戻したいんだが、もうチャールズの脅威は去ったとは言え、チャールズの残された部下こともあって、オレは町を留守にするのは難しくてな…」
「俺に連れ戻せと言うのが相談と言う訳か…」
「いや、出来る事なら連れ戻して欲しいが、やつらもチンピラ連中だからな。危険な目にあう可能性も充分ある。そんな危険を犯して連れ戻してくれとは言えないが、しかしアンタならセスの様子を見てくるぐらいなら出来るんじゃないかと思ってな」
確かに、こんなに泣きじゃくっている、か弱い少女をたった1人でチンピラ連中の巣の中に行かせるのは狼の群れに子羊を放すようなものだ。
ほぼ確実に悲劇が巻き起こるだろう。
「このままではあの子は人殺しになってしまいます…!そしてあの子も死んでしまう…。まだ十四の子どもなんです」
十四歳…。
確かに子どもだ…。
それはこの昔の西部劇のようなパラレル世界においても大人扱いするには若すぎる年齢なのだろう。
確か、西部の有名人、かのビリー・ザ・キッドが最初に人を殺めたのは十四歳だったという話を耳にしたことがある。
真偽のほどは知らぬが、その辺りの年齢がひとつその後の人生の分岐点となるのかも知れない。
かくいう俺も、始めて、人を……いや、俺の話はやめておこう…。
自分の墓を自分で掘り起こすことは決して出来ないのだ…。
悪の道へと自ら進んで行った少年の生き方に指図する権利など、もちろん俺には微塵も有りはしない。
自分の人生とは自分で決めるべきものだ。
しかし、皆すべからく、それを自分で決める『自由』を持っているとは限らない。
ましてや、俺の生きていた202X年よりも、厳しい環境のこの西武の地では、なおのことそうなのだろう。
自分の選択、行動が、自分が望んでいる事だと、はたして本当に言えるだろうか…。
俺にはそれはわからない。
俺にわかる事は。
このまま少年を放っておけば姉の言う通り、人を殺すか、殺されるか、その両方か。
きっとそうなってしまうだろうということだけだ…。
「わかった。様子を見てこよう…」
俺は、この依頼を受けることにした。
伝説のヒットマンが西部劇の世界に転生したら!? @OctoBer1993
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