第5話
決闘から一夜明け、この世界に来て二日目の朝。
オレはジョニーに手配して貰った宿に泊まって体を休めていた。
仕方の無かった事とはいえ、昨日の出来事には少し嫌気がさす。
結局、俺はこの世界に来ても人を殺めてしまった。
俺はこの殺しの連鎖からは抜け出せないのだろうか…。
この世界ではできることなら人の生き死に関わるような事はしたく無かった。
しかしジョニーが目の前で汚いやり方で殺されるのを見過ごすわけにもいなかった。
自分の行動に後悔は無い。
もし昨日にタイムスリップしたとしても俺は間違いなく昨日と同じ事をするだろう。
などと考えていると部屋のドアを誰かがノックした。
「どうぞ」
「どうやらもう目は覚めているようだな。どうだ?昨日は眠れたか?」
ジョニーが俺の部屋のドアを開け中に入ってきた。
「ああ、おかげさまで」
「そうか。それはよかった」
ジョニーはドアを閉めて、ドアのすぐそばの壁に背中をピタリとつけ体をもたれかからせて俺に話かける。
「昨日は助かったよ。あらためて礼を言うよ。お前が居なかったら俺は死んでいたかもしれない」
「いいや。死んでいたかもしれないのはこちらも同じことさ。あのまま地面に寝ていたらね。」
「ハッハッハッ!違いない!」
ジョニーは豪快に笑った。
そしてまた続ける。
「ところで…」
と、言いながら腕組みをする。
「お前、あの拳銃の腕前はどういうことだ。今まで見たどんなやつよりも凄いぞ?」
ジョニーは奇異の目を俺に向ける。
「さぁ、自分でもわからないな…」
「そうか。お前は記憶喪失なんだったな。じゃあ地面に寝ていた前に自分がなにしていたかわからないってことか」
「そういうことさ…」
ジョニーは俺が記憶喪失であると信じているので悪いがそれを利用して、自分がヒットマンをしていたことは隠しておくことにした。
無用なトラブルは避けるためだ。
「しかし、あの腕前じゃあ記憶を失くす前のお前は有名人なはずだよ。あんなに拳銃の扱いにたけてるヤツが皆から噂されないわけが無い。」
「そうなのかもしれないな。しかし実のところ俺はあまり自分の過去に興味が無いんだ」
ジョニーは何故だ?という困惑の表情をする。
それに気づいた俺は補足する。
「俺が有名なガンマンだったかはわからない。しかし今の俺は人を拳銃で戦い合うような事はなるべくしたくないんだ」
「なるほどな…」
「それにもしかしたら、俺は元々は大変な悪党だったかもしれないしな。1人悪党がこの世から居なくなったと思えば良いことかもしれないぞ」
「ハッ!なにを…」
ジョニーは冗談言うなというような仕草で俺の発言を笑い飛ばしている。
しかし俺の言ったことは事実その通りだった。
俺はヒットマンとして生きて、その道の頂点までたどり着いてしまった男だ。
人を死に導く仕事。
それがこの世界に来るまで俺のやってきたこと。
紛れもなく大変な悪党だ。
「確かに普通とは違う異様な空気を持っているけれど、お前は悪い人間には見えないよ」
さっきまで笑っていたジョニーは、今度は真面目な顔をしてそう言った。
「どうかな」
俺は自嘲ぎみに一言だけ返した。
「俺は人を見る目はあるんだ。まあチャールズの罠には気付かなかったがな」
といってジョニーは豪快にまた笑う。
ジョニーが人を見る目があるかどうかはわからないが、純粋で気の良い男であることはわかる。
「しかしな…。実はお前の腕を見込んでひとつ相談を持ってきたんだがな」
「相談…?」
「ああ、見せたいものがある。とりあえず俺に着いてきてくれないか」
この世界での恩人であるジョニーの頼みを何も聞かずに断ることも出来ない。
俺は、とりあえず見せたいものとやらを見るためにジョニーに着いていくことにした。
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