雨の日に

五本角

姿の見えない少女

雨。

雨は嫌いだ。

冷たいし、服が濡れる。

一人雨宿りをしながら私はそう思っていた。


『そうかなあ?』


 無邪気な少女の楽しげな声が聞こえる。やはり現れた。おそらくしかめっ面をした私の姿が気になったのだろう。


『えっへへー』


 姿は見えないが、声ははっきりと聞こえる。おそらくすぐ近くにいるのだろう。


『おはなし、きかせて』


 私は姿の見えない少女に話を始めた。今日あったこと、嫌な事、悩んでいること。ありったけ、全部だ。


『そっか。たいへんだったね』


 突然、頭にふわりとした感触がする。これは頭を撫でられているのだろうか。姿が見えない為、何をされているかは分からない。ただ、不思議と悪い気はしなかった。


『あめ、やんだね』


 気がつくとさっきまで降っていた雨は止み、雲の隙間から太陽の光が差し込んでいる。


『じゃあ、またね』


 そう言うと、姿の見えない少女は立ち去っていったようだ。一人残された私は雨宿りを止めて歩きだした。

やはり雨は嫌いだ。

いつもあの姿の見えない少女についつい甘えてしまう、そんな自分がとても恥ずかしく感じるからだ。

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雨の日に 五本角 @thousand_ceo

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