第2話 何で候補に残ったのか?

 最終候補には残ったものの、惜しくも落選してしまった私の作品。果たして何がいけなかったのか。

 ここでは警察小説大賞の概要から書き、選評の際に選考に関わった小説家や編集者の作品への意見を一部抜粋して書いていきたい。


 まず、警察小説大賞とは、小学館が主催する公募新人賞であり、歴史は極めて浅い。私が候補に残ったのは第三回目であり、初回、二回目の新人賞受賞作は既に小学館から書籍が出ている。選考委員は小説家の相場英雄氏、長岡弘樹氏。小学館の文芸誌「STORY BOX」編集長である幾野克哉氏の三名で選考される。そんな警察小説大賞だが、第三回をもってリニューアルし、警察小説新人賞と名前を変え、選考委員も変わるという。私は現時点で作品を出すかどうかはまだ決めかねているところだ。


 最初に「震える牛」「アンダークラス」などの著作を持つ相場英雄氏の選評だ。


『公安という普段はスポットライトが当たらない組織にフォーカスした点は評価したい。ただ、主要キャラクターたちの造形が薄く、彼らが動くスピードも遅い。敵についても〈危うさ〉が感じられず、これに立ち向かっていく捜査員たちの熱意が冷めてしまうような所が多々あった』


 続いて「教場」シリーズなどの著作を持つ長岡弘樹氏の選評である。


『公安警察と公安調査庁。似て非なるものの静かな対立には興味を惹かれた。ただ、主に会話による情報収集で話を進行させているため、いま一つ盛り上がりに欠けてしまったようだ。主人公の五感描写を増やせば、臨場感がさらにアップしたことだろう』


 最後に、「STORY BOX」編集長である幾野克哉氏の選評。


『公安調査官と外事課の警官が国際謀略に挑むという設定が効果的で、面白く読み進めることができた。ただ、構想の大きさに比して、書き込みがかなり足りないように感じた。規定枚数上限五百枚の半分ほどの分量だが、この物語をドラマ的に過不足なく落とし込むには、少なくともあと百五十枚ほどの紙幅が必要ではないだろうか。主人公たちが追いかけている黒幕の存在についても、消化不良の感が強い』


 三名の選評を読んで、私が書こうとしている作品がどのようなものかわかっただろうか。流石にプロットや小説の全容をここで書くわけにはいかないので、いくつか断片的に書いていくと以下のようになる。


 主人公は公安警察の警察官であり、ある事件を追っていくうちに国際的な事件を防ごうと捜査する過程を描くというものだ。ここで登場するのが公安調査庁の調査官。二人の視点から事件を追っていくというものである。


 まず、本作のタイトルは「警察孤児」というのだが、この警察孤児が最終候補にまで残ったのには、いくつかの発想の良さと着眼点にあると思っている。相場氏が書いているように、公安警察というのは警察の中でも底が見えない謎の部門と称される。警察小説や刑事ドラマでは殺人事件などを扱う捜査一課が主役を張ることが多く、公安警察が主役という小説は全くないわけではないが、どちらかと言えば少ない。逢坂剛氏の小説「百舌シリーズ」や自身が公安警察の一員だった過去を持つ濱義之氏の「青山望シリーズ」などが公安警察が登場する小説の代名詞といえる。

 私の場合、公安警察を題材にした小説を読んでから新書や書籍を読み、実際に作品に落とし込んだので、やや歪なところもあるだろう。それでも形に出来た点が評価の対象になったのかもしれない。しかし、それだけでは既存の公安警察小説とは形にならない。では、何が求められるかと考えたのが、「公安調査庁」であった。

 詳しくは省くが、公安調査庁とは法務省の外局であり、オウム真理教を筆頭とする国内情勢から国際情勢の情報分析を行う情報機関である。そこに所属する職員を公安調査官と呼称するのだが、私はこの調査官を小説に出すことを決めた。きっかけとなったのは新書であり、そこから公式サイトへ飛んだりして情報を集め、実態がいまいち掴めない公安調査庁という組織を出して、警察官と調査官という全くタイプの違う二人が事件を追っていくという筋書きを仕立てた。これが、警察孤児のおおまかな話である。

 では、何が問題だったかと言うと、やはり人物像が曖昧であったこと。やや物語が平坦で、希薄が感じられるというところだ。これを指摘されるということは、小説ではなかなかのダメージとなる。そして、幾野氏が指摘したように、分量が少ないというのも問題になった。私の悪い癖として、規定原稿枚数をある程度超えたらすっぱり終わらせるように書き上げるというものがあり、要は中身がないまま終わらせてしまったり、ラストシーンで投げ出してしまったりすることが過去にいくつかあった。しっかりプロットを組み込んでいれば、こんなこともないのかもしれないがと悔やんでしまう一例だ。

 

 ここまで読んでくれた方に感謝申し上げます。もし、聞きたいことがありましたらこのページのコメントに書いていただけるとそれに合わせて話を書くかもしれません。どうぞよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る