天野行隆の公募奮闘日記

天野行隆

第1話 やってきた若手物書き

 人生が変わったといえる出来事があった。

 きっかけは今年一月下旬のことである。仕事を終えて帰宅し、パソコンで執筆をしていた時にスマホが鳴った。誰からだろうと思って画面を見ると見慣れない番号が表示されている。この時の私は「ん?」と思っていた。市外局番が東京のものだったのだ。

 東京に何かあっただろうか?

 そう思った途端、私の中にあるひらめきが生まれた。


「出版社だ!」


 私は混乱してしまい、一度電話に出たものの手が滑ってしまい、通話を切ってしまった。あたふたしながらもう一度かけて詫びると、電話の相手は和やかに応対してくれた。

 電話の相手は小学館を名乗った。「あのー、小学館ですー」みたいな感じで名乗り、編集者のWと名乗った。


「あなたの作品が、この度第三回警察小説大賞の最終選考に残りました」


 先に言っておくが、詐欺とかではない。ちゃんと応募した新人賞であり、応募した原稿のタイトルについても確認をとった。間違いない。本物だ。私は心の中で驚きと嬉しさを隠せなかった。

「候補の発表は一か月後で、それまで口外はしないでください」

 そう言われてから電話を切られる。私はしばらく放心状態だった。何という僥倖であろうか!? 受賞すれば小説家としてデビューとなり、夢がかなうのだ。この上ない幸福が襲ってきて、何度か自分の頬をつねってみた。

 痛い。感覚がある。

 間違いなくこれは現実の話なのだ。


 遡ること去年の九月。私は小学館主催の「警察小説大賞」に作品を応募した。名前の通り、警察小説を募集するという極めて異例ともいえる新人賞であり、受賞作は小学館から出版される。警察小説についてはほぼ専門外ではあったが、それでも警察関連の新書や小説を読んでいたし、構想はあったので生まれて初めて警察小説を書くに至ったのだ。

 その作品がどういう巡りあわせか、最終候補に残るという快挙を成し遂げたのだから、これ以上の嬉しさはない。受賞すれば夢への第一歩。小説家という長く険しい道が見えかけていた。

 最終候補の発表が小学館の公式サイト「小説丸」で公開され、そのことをTwitterで報告すると、多くのリツイートやお気に入りで通知が止まらなかったのを今でも覚えている。

 最終候補発表日から受賞の連絡日までは一週間の時間があった。

 その間の自分は酷く緊張していた。受賞することへの期待や、今後の不安などが頭から離れずにいたほどだ。


 受賞の連絡は、最終候補発表の連絡があった時間とほぼ同じ時間にかかってきた。


「申し訳ございませんが、今回は受賞となりませんでした」


 私は今でも小説を書いている。いつか受賞を夢見て、今日もキーボードを打つ。


 これは、そんな私の備忘録兼、活動日誌みたいなものである。

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