第14話 1年後…

 あの、別れから1年が経っていた…。


 実は別れの直後を、首都直下型地震が襲っていた。彼は何とか無事だったが、彼の携帯は、落ちてきたものに当たり壊れてしまい連絡先等も近々のものは復旧することができなかったので、私の旦那に連絡をとることも全くできなくなっていた。

だから、彼は私がどうなったのかは分からない。


 ただ、お気に入りの腕時計に話しかけても反応は全くしない。それが全てだった。私との思い出を胸に秘めながら彼は、何とか地震から復興しようと色んな活動をしていた。



 ある日彼は、チャリティーの朗読劇を行っていた。

公演が終わり楽屋に戻る途中、人の名前を呼んで誰かを探している女性の声が聞こえた。相変わらず困ってる人をほおっておけない彼は、彼女に近づいた。

「どうしました?誰かお探しですか?」

彼は彼女に話しかけた。

「子供とはぐれてしまって…」

彼女が言い終わらないうちに

「まなちゃん…、まなちゃんだよね?」

そう、彼に呼ばれて、彼女の脳裏を走馬灯のように上野さんと腕時計として過ごした日々が思い出された。彼女は、彼に別れを告げた後、意識を取り戻していたのだ。

 でも、引き換えに彼との思い出は全く忘れてしまっていた。でも、彼の呼びかけにようやく思い出したのだ。

彼も私も涙を沢山流していた…


「でも、どうして私だってわかったの?顔や姿、見たことなかったよね?」

疑問をぶつけてみた。


「声と、香り…まなちゃんには言わなかったけど、実は香りもしてたんだ。それがまなちゃんの香りかどうかはわからないけど、腕時計をぎゅっとするといつも落ち着く香りがしてた。その声と香りが今同時に来て思わず名前呼んじゃった。」

彼が懐かしむ顔で語った。



「携帯、地震で壊れちゃって、旦那さんにも連絡できなくて、どうなったのか不安だったんだ。旦那さんからも連絡なかったしさ…」

彼の言葉を返すように私も語った。

「実は、あの地震の時、旦那が東京出張だったんだ…、それで被害に遭って、私が意識を取り戻した時には、もう…会えなかった。」

彼は絶句していた。


と、脇から娘が顔を出していた。

「あれ?上野さんとお話してる~いいな~」

涙の再開も、娘の素っ頓狂な言葉に笑顔になっていた。








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