仕事中に体調を崩したことをきっかけに、目指した道を諦めて平穏な暮らしを選んだ主人公・星野。
その道で華々しい成功を収める友人を見ながらくすぶっている彼が、離島で取材しながら人々と関わる中で、何を見つけ出すのかが、実際に行ってきたような魅力的な島の描写も伴って丁寧に描かれます。
なりたい人がいくらでもいる華やかな仕事の必然として、激務で競争が激しく、すべてを注ぎ込んだところでそれでも勝てる保証は一切ありません。家族や健康のことも考えれば、それは合理的な選択ではないのかもしれませんが、それで割り切れるなら苦労はしません。
カクヨムを見ている方にとっては小説家が身近なところかとは思いますが、何かしらクリエイティブな仕事を志したことがある方にはきっと刺さる作品だと思います。
夢を叶えた人には惜しみなく与えられる賞賛の声。でも、夢を叶えた人がいる一方で、夢を叶えられなかった人もいる。努力が報われなかった傷を抱えながら、彼らはどうやってその後の人生を歩んでいくのか…?それが本作のテーマだと思います。
本作の主人公、星野さんにも夢を追いかけた過去はありますが、彼は夢に敗れ、身の丈にあった生活を送ることを選択します。安心して働ける職場と出会い、気遣いのある妻に支えられ、一見幸せそうに見える生活の中でも、夢を叶えた人々を見るたびに星野さんの古傷が疼きます。
そんな中、取材のために訪れたとある島での人々との出会いによって星野さんに変化が訪れます。様々な事情から都会での生活を捨てて島へと移り住んできた人達。彼らと接する中で星野さんは自分自身と向き合い、次第に過去を引き摺る自分と決別し、今の自分の在り方を模索していきます。
豊かな情景描写や、島の人々との生活風景に心が暖かくなり、読んだ後には間違いなく晴れやかな気分になれる、年齢を問わずお勧めしたい作品です。