第4話 幕間、或いは長い独白
東京都市。
かつて、日本と呼ばれた国の名残。
その国は、アメリカ共和国と中華民主連邦国、中国との戦争の被災地となった。
否、正確には戦地となった。
元々、アメリカ国の直接の植民地だったこの島国、49番目の州であるこの島は、2070年、第二次米中戦争が勃発した際の、前線基地となった。
となれば、必然として中国はこの島を直接的に攻撃するのは道理で、この島は三度、焦土と化した。
「先生、もう少しで指定された目標地点につきます」
「……」
一度目は、西暦2070年1月、戦争勃発時。無数の爆撃が大地の形を変えた。
「? 先生、何を読んでいるんです?」
「……古い友人からの、最後の手紙だよ」
二度目は、西暦2079年12月、戦争終結直前。純血主義による粛清が始まり、文字通り無数の人が処刑された。民間人、軍人問わず、多くの人間が銃殺され、磔刑に処され、大量の血が、焼けた大地に流れ、人の死体が街中に、墓標の如く、この島に連なった。
「テイホン……」
「なんて書いてありました?」
三度目は、西暦2107年1月、中華民主連邦の属国となったとき。大陸の中国籍の人間が流入していき、この島国の文化は完全に消え去った。
「……。後は任せた、だと」
西暦2117年.この日本という島には、三つの街ができた。
それ以外の街は、存在しない。
街の外には、荒野と、剥き出しのマグマが走る焦土が広がり、枯れ木一本すら生えない文字通りの地獄が広がっていた。
街の外縁には、スラムが広がり、生き残った僅かな日本人が暮らしている。
街の中には、本土からの人間、そしてアンドロイドが暮らしていた。
「バカが……」
「先生……」
「……。人は死ぬものだ」
街は、鳥かごである。
残った日本という文化を消し、歴史を消し、やがて存在すら消すための、楔である。
やがて、この日本という概念そのものは消えていくのだろう。
だが―――――死んでいった多くの人たちの血は、まだ残っている。
炎に焼かれた肉は大地に溶け込み、流れ落ちた何億という人の血は、大地に染み込み続けている。
それは、地の底の底に溜まり、膿を造り続けている。
それは、呪いにも似た、何か。
この街は、ソレを抑えるための楔。
あるいは、ソレを受肉させるための依代。
過去が受肉を始める。
過去が今を飲み込もうとしている。。
「――――託されてやる。お前がそう望むのならな」
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