約束
「え、解散しちゃったの?」
森田はタバコの煙を吐きながら
「ギターの奴が大学の後輩なんだけど、就職して音楽もやめるって言ってさ。最初は残りの3人で続けるとかサポメン入れるとかって話も出たんだけど、やっぱりあいつのギターがないと俺らの音楽じゃねえって話になって……でもまあ、ベースとドラムは他にもバンドやってるし、俺がいなくてもやっていけるからいいんだよ、うん」
途中から自分に言い聞かせるような言い方になっていた。やっぱり今日の森田はおかしい。
「んで、他にやりたいことも特にねーし、しばらくはソロで曲作って弾き語りでもしようかと思ってたんだけど、1人だと何も浮かばなくてさー……そんで、夜勤のコンビニでクソ客相手にしてるときとか、急に全部どうでもよくなったりするんだよな」
そう言った森田は、今まで見たことがないぐらい不自然な笑みを顔に貼り付けていた。今のは自分も音楽をやめるとか、そんなニュアンスの話じゃない。
「あーもう!」
私は耐えられなくなって叫んだ。森田は一瞬ビクッと動き、目を丸くしてこちらを見ている。
「さっきから黙って聞いてればウジウジしちゃってさー!要は今ライブなくてヒマなんでしょ!?」
「え?ああ、まあそうとも言う……?」
森田は完全に圧倒された様子でそう答えた。
「そんなにヒマなら私の新曲書いてくれる?帰ったら今まで出した音源のデータ送るから、それで私の音域把握しといて」
「いやお前自分で曲書けるじゃん、俺が書く必要ないだろ」
わけが分からないという様子で森田は答える。森田の言っていることは正しい。だけど私は、今の森田をこのまま何の約束もない状態で帰してはいけないと直感的に思っていた。
「最近マンネリ気味だったから、新しい雰囲気を取り入れたいと思ってたの。もちろんあんたの名前は出すから安心して」
森田はしばらく
「あーちくしょう!わかったよやってやるよ!」
「よし決まり!来月までに新曲のデモ持ってくること!すっぽかしたらぶん殴る!」
私はニッコリ笑ってそう言った。
「いや来月はキツいっす!せめて2ヶ月後!」
そう言う森田はいつもの調子に戻っていた。
「えー?しょうがないな、今回だけサービスね」
「おい、今回って何だよ!何曲作らせる気だ!?」
「よし、今日は森田の
私は店員を呼ぶボタンを押した。今年は一味違った活動ができそうだ。
地下の星 乳歯 @ny__s
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