第11話 ずっと待っていた

 ツユは私が落ち着くのを待ってから、ゆっくりと話し始めた。


「...僕ね、この世界に来る前、別な世界で、神様って呼ばれてたことがあって。」


 神様?ツユが?なんか、初めて会った時に似たことを聞いた気がした。


「この世界ほどじゃないけど、雨が降りにくいとこでさ、僕が雨の時だけ姿を見せるから、僕が降らせてるって思ったんだろうね。」


「お供え物も沢山貰っちゃったし、ちやほやされて嬉しかった。食い扶持が繋げるのはありがたかったな。」


「雨を降らせるなんて、乾いた土地の農家にとっては神様みたいなもんだよね。...今と違って、そんなこと出来ないのにさ。」


「それでさ、しばらく別な世界を渡り歩いてさ、久しぶりにまたその世界に行ったら...」


「石を投げられたんだよね。痛かった。お前が来ないから、飢饉で息子が死んだって、怒鳴られちゃった。」


「怒鳴られた時は悲しいよりも最初にびっくりしちゃってさ、急いで別な世界に逃げ込んで

 ...そして、しばらくしたら急に悲しくなってきちゃって。

 僕、わざと人を飢えさせるような存在だと思われるくらい、信用されてなかったんだって思ってさ。」


「昨日、信用できないと言われた時、そのことを思い出したよ。一度反省したつもりだったのに、結局何もわかって無かったんだ。」


「順番が逆なだけで、同じだったんだ。昔石を投げられた理由も、昨日ロセアちゃんに武器を向けられた理由も。」


「人に何かして欲しいなら、ちゃんと相手と向き合わなきゃダメだ。あの世界の人達は、飢えを凌ぐ為に必死で祀ってくれたのに、僕はそれを受け取っておきながら何もしなかった。僕があの世界とちゃんと向き合っていたら、石なんて投げられなかった。」


「ロセアちゃんと会った時も、祠を壊そうなんて提案しないで、まずはロセアちゃんの置かれた状況に向き合うべきだった。そうだ、今ならわかる。」


「ロセアちゃんのこと、化物騒動に巻き込んでごめんね。もう一回、ちゃんと謝りたかった。」


「帰る方法を探すのは、この世界を元通りにしてからにするよ。

 元に戻るまで、色々変なことが起こるかもしれないけど、その批判は全部僕が正面から受け止める。」


「だからさ、まだ少しだけ、一緒に戦ってくれないかな。」


 ツユは手を差し出した。こちらを見る赤いガラス玉の様な眼には、ちゃんと私が映っている。祠の管理者としてではなく、ただ1人の人間としての私が。まだ気持ちの整理がついていなくて、言葉が上手く出てこなかったけど、私は力強くその手を握った。私はこの手を、そしてこの眼を、ずっと待っていた様な気がした。

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