第7話 まるで私が

 武器を向けると、ようやくツユは口を開いてくれた。


「...信用されなくて当たり前だ。僕みたいなのが急に現れたら、どれだけ正直に言葉を発しても、普通は頭のおかしいやつと思われるのが関の山だ。」


 ツユは俯いた顔を少し上げる。顔はこちらに向いているはずなのに、目を合わせてくれない。


「ごめんね。勝手に信じてもらえるって勘違いしてたよ。元の世界に帰りたかっただけなんだ。人様の迷惑をもう少し考えるべきだったね。」


「僕を倒したいんだって?いいよ。いつでもおいで。でも明日以降にして欲しいな。今日はもう寝たい気分だ。」


 ようやく目が合った。眉毛が少し下がっている。ツユのそんな顔は初めて見た。ツユが今まで私に向けていたのは、明るい表情だけだったのだと気づく。


「僕が逃げないかって心配だろ?ほら、これ見て。ここにあるのが、雨を降らせる装置さ。」


 ツユは近くにある機械のようなものに、ポンと手を乗せた。


「とても大きくて動かせないから、いつでも壊すといい。逃げないよ。ただ、今日壊すのを勘弁してくれれば、この装置の本物を確かめるついでに、Rainpopで君を家まで送ってあげられる。」


「だから、やっぱり今日だけ見逃してくれないかな。これでも信用できない?」


 そんな顔で、そんな目で、そんな声で、そんなことを言われたら、まるで私が悪者みたいだ。

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