第4話 言えたのは結局

「おはよう。」


 一階に降りると、父が挨拶してきた。何か言いたそうな顔をしているのがわかる。ここから早く逃げたいと思った。


「おはようございます。」


「他のラバーズから聞いたが...」


 ああ、どうせそんなとこだろうと思った。昨日の雨?化物騒動?それともミアからの苦言?心当たりが多すぎるけど、大方その辺りだろう。


「大丈夫です。今日で解決させます。」


 とだけ言って、逃げるように家を出る。聞きたくなかった。言われなくても、どうせ今から解決するつもりだったから。


 一本道、化物はいない。本当はそれが当たり前だけど。


 あっという間に祠についた。道に障害がないことのありがたみを感じる。祠自体にはありがたみは感じないけど。


 祠の点検をする。一切の異常は無かった。いっそ昨日の雨も、祠の異常だったら楽だったのに。


 そして、台座に向き合う。父の反応からして、昨日の騒動はラバーズを通してミアに伝わっているだろう。

 ミアがどれだけ機嫌を害しているか、想像に難くなかった。


 でも、私はちゃんと報告して、この問題も解決するつもりだ。


 ついにミアが飛び出す。


「おつかれさまです。ミア、昨日のことですが...」


「おつかれさま!!!」


 何故かミアの機嫌は良さそうだった。もしかして、昨日のことが伝わってないのかな。


「落ち着いて聞いてください、実は昨日...」


「うん、雨が降ったんでしょ?大変だったね。変だよね。祠は無事なのにさ。」


 知っていた。しかも、労いの言葉までかけてきた。


 思えばこの1ヶ月、ミアの機嫌が急に良くなることが何度かあった。

 ミアは元々不安定な性格だったが、その範囲を超えて機嫌が良くなることがあったのだ。まるで、心の不満それ自体をどこかに捨ててきたように。


「雨が降ったの、嫌じゃ無かったですか?」


 こう訊くと、ミアの顔色が変わる。


「なに?嫌に決まってるじゃん。」


「今ミアさ、ロセアが大変だったろうなって思ってさ、大変だったねって言ったのにさ、なんでさ、ありがとうじゃないの?なんで雨降ったこと謝ってくれないの?」


「なんでミアが雨嫌じゃないって思ったの?ミアが雨嫌だったらロセアに大変だったねって言わないって思ったの?ミアは雨嫌いって1ヶ月前散々...」


まずい。


「いや、ミアが心配だなって思ったんです。ミアは雨が嫌いだから、辛いはずなのに、無理して優しくしてくれてるんじゃないかって思って」


「...だから、心配が先に来て、変なことを聞いてごめんなさい。そしてありがとうございます。」


「...うん。」


 不満そうにミアは頷く。


「それで、雨についてですが、降らせている人物が居ます。昨日は逃げられましたが、今からその人物の元に行って、解決を図ります。」


 ここまで話して、ようやく一息つく。このことを初めに言おうと祠に来たのに、言えたのは結局最後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る