第2話 生き残る道は1つだけ
ツユは私に籠手のようなものを渡した。言われた通りに取り付けて、ボタンを押すと、カードが飛び出してきた。
「それね、チャージしないと使えないんだ」
チャージとは何だろうか、勝手に話が進んでいく。
「うん、取り敢えずこれでOK」
「このビームってやつ、使ってごらん」
言われるままにカードを掲げると、カードから光の塊のようなものが放たれた。
放たれた光は、石を思いっきり投げたような速さで化物に向かって直進し、あっという間に命中した。バシッと音と共に、化物ははじけて消えた。
「運がいいね。化物も同じ技を打っていれば、きっと相殺されていたよ。」
同じ技?相殺?状況がよくわからないかった。自分の眉毛が寄っていくのを感じる。
伝わっていないと思ったツユは言葉を付け加える。
「この武器は対等に戦うための道具だからね。」
訳がわからない。いや、今気にするべきは意味不明な道具の原理じゃない。雨と同時に現れた人間、化物への慣れた対応、そして身につけているのは水を弾く服。今私が投げかけるべき質問は...
「この雨、あなたが降らせたんですか?」
「お、ご名答。この雨は僕が降らせました。」
あっさりと認めた。悪びれるどころか、少し嬉しそうだ。悪いという自覚すら無いのだろうか。
「あなたは何者なんですか?」
「んーーー?僕はね、雨を渡って、別の世界から来たの。」
別の世界...?なるほど。「別な世界から来たから、雨が降っちゃダメなんて知りませんでした」とでも言いたいのか?
「気でも触れてるんですか?そんな言い訳が通用...」
「うん、言ってもわからないよね。」
半分諦めたような顔で見てくる。
「あーー、そうだ、神様だとでも思ってくれればいいよ!雨の神様、的な?」
神...?雨の神様?本当にこの世界のことを知らないのか?
「そんなはずないですよ。あなたが神な訳ない。だって、神は世界のために雨を封じたんだから!大体...」
「そう、それ!なんで?」
私が話し終わる前に返事が飛んでくる。相手がミアだったら殺されているだろう。
「なんでこの世界雨降らないの?ってか、なんで君は見たこともないはずの雨を知っているのさ。他の人に聞いてもみんな知らないって言ってたよ。」
「...1ヶ月前の大災害。あなたもこの近くに居たなら知ってるでしょう。きっとあれが雨です。少なくとも私にはそれが推定できた。」
ここまで喋って、馬鹿正直に言い返したことを後悔する。ツユは何かに気づいたような顔をして、少し嬉しそうにこちらを見た。
「うんうん。なるほどねぇ。」
「僕、この世界のことはまだよくわからないけど、今の言葉で大体わかったよ。」
「まず考慮すべきはこの道だ。人気のない山道なのに、そんなに荒れてない。おそらく1人、いや2人程度の人間が定期的にここを通ると考えていい。その内の1人は君の可能性が高い。だって今ここに居るからね。そして君が言うには、『自分には1ヶ月前の雨が雨だと認識できた』そうだ。」
難しい問題の答えを思いついた子供のように興奮しているのが、初対面の私にすら伝わってくる。ツユは目を輝かせ、ほんの少し荒立った息遣いで自慢げに話し続けた。
「思うに、これは1つの仮説を立てると筋が通る。『雨を封じているのは神ではなく、実態を持った装置である』というものだ。
恐らく、その装置は1ヶ月前に不具合を起こした。そして雨が降った。君はそれを雨と認識した。そして、雨を封じる装置とやらは...」
表情が少し柔らかくなった。無事に答えが出せそうで満足という顔だ。
「この近くにある。そうだね?」
「だとしたら、どうするんですか?」
我ながら言い逃れが下手だと思う。
初めに問い詰めていたのは私なのに、これじゃ私が自白する犯人だ。
「どうするって、そりゃあね...」
答えは決まっているような口ぶりで、当たり前のことを吐くようにこう続けた。
「その装置さ、ちょっとぶっ壊してみてくれない?」
やっぱり、気が触れているのかも知れない。
「な、なんでですか」
倫理的にぶっ飛び過ぎてて、怒るより先に気の抜けた返事が出てしまった。
「なんでって、さっき言ったでしょ」
「僕は他の世界から来た。雨のあるところから雨のあるところへ移動する能力を使ってね。」
「ほら」
という声が突然右耳から聞こえ、驚いて振り向くとツユが立っていた。今さっきまで正面に居たはずなのに。
「Rain popって言うんだ。この能力。」
「この能力で僕はこの世界に来た。でもびっくりしたよ。そしてすごく困った!雨が降らない世界なんて初めてだったから。」
「雨が降らないんじゃ帰れない。帰れないんじゃ仕方ないから色々調べて、研究して、なんとか雨を降らせてみたのさ。」
「でも帰れない。原因はわからないけど、きっと自力で降らせた雨じゃ帰れないんだ。今みたいに近場は移動できるのにね。」
なるほど。私の方も大体わかった。
「ツユ...さん、つまりあなたは、自分が帰るためならこの世界がどうなってもいいんですか?」
こいつの話が本当なら、自分さえ帰れれば良いんだ。世界ごと逃げて仕舞えば、後腐れもないんだから。
「あー、あのさ」
ツユは目線を真っ直ぐ向けてきた。数秒ほど目が合い、私は気まずくなって伏目になる。まずい、怒らせたか?
後処理くらいは考えてるから、余計なことを口に出すなということだろうか。
よく考えなくても相手は得体の知れない人物だ。なまじ言葉が通じるから今こうして会話こそしているが、変な能力を持っているこいつが、私に牙を剥いたらと想像すると恐ろしい。適当に機嫌でも取って逃げてしまえば良かったんじゃないか?
私の脳内では走馬灯のように後悔と生き延びる方法の模索が駆け巡り続けた。
「あのさ、呼び方は『ツユちゃん』でいいよ。」
は?
「いやー、さん付けって苦手でさぁ、ああそうだ、君の名前は?さっき聞きそびれたよね。」
コトの重大さがわかってないらしい。祠を壊すことが何を意味するのか。
...いや、こいつは祠なんて知らないか。ただの装置だと思っているから。恐らくこいつにとって雨が降るのは当たり前で、私たちの...
「な、ま、え!!」
ビクッと自分の肩が上がるのを感じた。ナマエ...?ああ、名前ね。
なんでこいつ今こんなことに拘ってるんだっけ?まあいいや、変に嘘ついても後が面倒だし正直に話そう。
「私はロセアっていいます。呼び方は...呼びやすいようにどうぞ。」
「ロセアちゃん!よろしくね!!」
「...よろしくお願いします。」
何をよろしくすればいいんだろう?
まいったな。取り敢えずこのツユって奴から逃げたとして、その後...
「あれっ?何をよろしくすればいいかわからないって顔してない?」
エスパーかな?
「化物退治だよ!ほら、さっきみたいな化物!出てきたら君も困るでしょ?バケモノ!!」
化物!そうだ。新しい情報が多すぎて、大事なことが頭から抜けていた。ついさっき襲われたのに。
ツユの言う通りだ。化物が出たら私は困る。そして化物のことは、何故かわからないけどツユが倒し方を知っている。つまり、ツユと協力しなければならないということだ。少なくとも、私が1人で化物を倒せるようになるまで。
「化物退治...」
「そう!化物退治!協力してね!」
協力。祠を壊そうなんて思ってる奴と協力かぁ。ミアに殺されないだろうか。いや、多分化物を野放しにしても殺されるから一緒か。
となると、私が生き残る道は1つだけ。自力で化物を倒せるだけの力をまず身につけて、そのあとツユを引っ捕らえてミアにつき出す。これしか無い。上手く出来るかわからないけど。
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