第4話 ざまあねえな

 一般客にとって野菜コーナーを疾走する俺の姿は色付きの風にしか見えない。皿に新鮮なレタスを盛り付け、クレープを焼き上げ、うどんののみを椀に取った俺はファミリー席に戻った。


 そこにいたのは死屍累々のS級パーティの暴食死体。だが、つゆの匂いでケルビンが目を覚ます。


「それは……?」

「ケルビン、いつも真っ直ぐに突っ込みすぎだぜ。うどんつゆに焼いたカルビを入れるんだ」

「これは……脂が適度に抜けて美味い」


「爺さまにはこれを」

「肉をレタスに包み……ほう、隠し味はキムチか」

「森と菌類に敬意を、貴方から学びました」


「レインにはこれを」

「そんな、こんな序盤にアイスクリームのクレープなんて……デザートは最後にするものでしょ」

「好きなものは我慢するな。自分のことを後回しにしすぎると、大切な気持ちも伝わらないぜ」

「バッ、バカ……」


「ワオーン!おれには?」

「ビーストは少し手間がかかるぞ」


 俺は皿の上に残ったコロッケを網に乗せて加熱する。そしてクレープでレタス・ポテトサラダにフライドポテト、最後にサクサクのコロッケを包み……


「大好きなものにまっしぐら、ポテトルティーヤの完成だ!」

「ワオワオーン!サクサク!うまい!」


 味覚と食感に変化を加えたローテーションがハマった。食事にとって最も怖いものは「飽き」だ。どんなに美味いものでも単調では耐えることができない。さいわい、すたみな太郎には無限とも言える食材のバリエーションがある。俺はすたみな太郎を俯瞰してマエストロとして君臨する。


 テーブルの上が落ち着いてきた。ここからがS級パーティの反撃開始だ。


「これは、どうかの?」


 始源の泥濘ウーズが、寿司を網の上に載せる。


「まさか!」

「そんなことが?」

「それがありえるんじゃなあ」


 マグロ寿司が、にランクアップした!!


「ワオーン!」


 いまや飽きから脱した獣剣士は、いまやトングと箸の無限三刀流でクレープを軸とした、タコス風コンボを繰り出している。


「からあげ!カルビ!シーフード!」


 包んでしまえばなんでもイケることに気がついたビーストの進撃は止まらない。


「見てみて、これが私の冷熱魔法マリアージュよ!」


 通常は対立するため行使できない「光と闇」「火と水」「風と大地」の六属性魔法を同時に習得する七番目の系統「虹魔法」を操るエルフの賢者は、凍てつくバニラアイスに熱々のエスプレッソを流し込んだデザートを生み出すに至った。


 だが、リーダーである拳凍士ケルビンは動きを見せず丁寧に肉を焼いているだけであった。俺の視線に気がついたケルビンは、目をすがめてこう言った。


、だっけか」

「あれは……」


 俺は口ごもるが、ケルビンは表情を和らげて続ける。


「ごもっともだ。俺たちはこの店を、お前を舐めていた」


 肉を返す、そして「絶対零度アブソリュートワン」を食べごろの肉に打ち込む。


「これまでは、やみくもに突っ込み、なんとかなってきたが、そうもいかないみたいだな」


 した肉は、焼け焦げることもなく程よい熱を保ったまま網の上で静止している。ケルビンの得意技「絶対零度アブソリュートゼロ」は、厳密には凍結魔法に類するものではないらしい。ことで、結果的に絶対零度で凍結したかのように対象を時間停止させるのだという。


 ケルビンは、デザートや綿あめを片手にはしゃぎまわるレインとビーストを横目に観ながらつぶやく。


「あいつら肉を忘れて遊んでいるからな。お前が居なくなったら、俺がブレーキ役を務めなきゃならん、っと食べごろだぞ」


 ケルビンが旨味うまあじカルビを俺の皿にとる。

 おれも網の外周で育てたアップルポークをケルビンの皿に返す。


「フッ」


 どちらともなく笑みがこぼれる。

 そのタイミングで店員が焼き網を交換していった。穏やかな会話の邪魔をしない。絶妙のタイミング。これも覚醒スキル【すたみな太郎】の権能である。


 やがて、テーブルの上には「大ライスとカレー」が残された。


 最初にして最後の強敵ラスボス。もはや、体力や腹に余裕はないが、残された時間は少ない。


 俺は【すたみな太郎】を全開にして計算を行う。


(残りの食事を平らげるには、ビーストに頼るしかない。ビーストのユニークスキル【狂獣化バーサーク】はスタミナを大量に消費して攻撃力を高めるスキル。スタミナを消費すれば急激に満腹度が減少するが……発動条件は、状態異常に陥った場合であり……ウーズの覚醒スキル【地獄爪ナイトフォーク】でビーストを毒状態にすれば……もしかしなくても即死するな。どうする、レインの解毒が間に合うように時間を稼ぐには……ヨシッ)


 俺は、思いついたアイデアをケルビンとレインに耳打ちをする。ウーズも作戦を察して、憐憫の表情でビーストを見つめる。支配人は、を目視。店内の終末時計を見る。


「ビースト、いくぞ!作戦名ファイナルマゲドンだ!!」


「え?」


その腿にパイソン・ヒドラですら悶死する地獄爪が突き刺さり、一人だけ事情を理解していないビーストの悲鳴が店内に響き渡った。


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