第2話 漂着神コラーボ

 この世界は七十二階層の平面世界とそれを貫く柱で構成されている。太古の神々の名を冠した七十二階層には、それぞれ特徴があり、例えば、俺たちが暮らす平面世界は[アバドン]と呼ばれる商業が盛んな「強欲都市」だ。


 強欲都市には、漂着物えびすを縁起物として崇める風習があり、実際に神殿には女神が住んでいる。彼女の名はコラーボ、人々からは[漂着神コラーボ]と呼ばれている。


 その日、俺たちがパイソン・ヒドラを討伐していたのと同じタイミングで神勅が降りたのだと、俺たちはと人づてに聞いた。


 神勅にはこう書かれていた。


【すたみな太郎コラボ開催】


 と。


 そんなわけで、俺たちが大森林から帰り着いた頃には、アバドンはコラボ飲食店【すたみな太郎】の話題で一色となっていた。


 帰り着くまでは「送別会はどこで開こうかねー、いつもの高級料亭でいい?」等と気軽に考えていたS級パーティも、これにはおどろいた。


 そして、新し物好きのアバドン住民の血には抗えず、S級パーティの5名様は、すたみな太郎への入店行列に並んだのだ。


 長く続いた行列はアバドンの目抜き通りを横断し、2ブロック分も続いていた。最初は行列の長さに不安を覚えていた一行も、行列の後ろが並び始めた頃の2倍の長さに達したことを確認すると、不安より期待が勝っていった。


「どうやら、すたみな太郎の店内は酒池肉林の宴らしい」

「虹色のスイーツがあるらしいわ」

「グルル、おれ我慢できない」

「お主らはガキじゃのう、なに? 寿司もあるじゃと?」


 チームメンバーが俺の送別会という前提を忘れてはしゃいでいる。そういう俺も他人事ではなく、すたみな太郎への期待に満ち溢れていた。


 だって、俺の覚醒スキルは【すたみな太郎】だぜ? 意味不明なこのスキルがここにきて活躍するのかもしれない。環境に最適化されたことで、俺自身の評価も高まるのだとしたら、パーティメンバーも俺の追放を考え直してくれるかもしれない。だって、俺はこいつらが好きなんだから。


 その時、1.5ブロック先のすたみな太郎の店舗から黒いスーツの男が歩み出てくるのが見えた。男は俺たちを見つけると小走りで近寄ってくる。


「む?」


 真っ先にビーストが感づく。ただごとではない雰囲気だ。


 黒スーツの男は、名高きケルビンの前を通り過ぎ、美女のレインに目にもくれず、狼人も気にせず、泥と木材で身を包んだ気品あふれる老人をまたぎこえると、俺の前に直立し、直角のおじきをして叫び声を上げた。


「タミーナさまですね!お待ちしておりました!」


 こちらへどうぞ、と言うや俺の手を引き、黒スーツの支配人は100人抜かしで、俺達をすたみな太郎の店内へエスコートしたのだ。


「タミーナ、すごいじゃない!」

「それがお前の覚醒スキルか!」

「ワオーン!!」

「……マジか?」


 俺は生まれて初めての絶頂を味わっていた。名高いS級パーティの一員として、得難い覚醒スキルを獲得したのだ。


 全てがうまくいく。

 その時は、誰もがそう思っていた。


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