第61話 追跡
「ここじゃ! 止まるのじゃ!」
先頭の馬に騎乗していたアリエーヌが叫んだ。
それに呼応するかのように、付き従う馬たちが土次と足を止めた。
疲労のせいか馬たちの体には滝のように汗がながれ、口の周りは白く泡立っていた。
アリエーヌは、すぐさま馬を飛び降りると叫ぶ
「マーカス! マーカスはどこじゃ!」
しかし、反応がない。
場所を間違えたか?
いや、間違うわけはないのだ。この風景。
全ての物が焼け払われ、地面がところどころ崩れ盛り上がっているこの光景。
ここで、魔王との最終決戦が行われていたことを如実に証明している。
ならば、マーカスはどこに行ったのじゃ?
まさか、魔王が勝ったとでもいうのか。
しかし、周囲からは、魔王の恐怖は感じられない。
寒々しい荒野の風景以外は、特に何も感じないのだ。
やはり、マーカスが魔王を打倒したのは間違いないだろう。
だが、マーカスの姿は見えない。
もしかしたら、相打ちで消えたとか……
アリエーヌの頭に嫌な予感がよぎる。
そんな時、一人の近衛騎士が声を上げた。
「アリエーヌさま! こちらに! ココに人間の足跡とおぼしきものが二つございます」
「なんじゃと!」
その声のもとに駆け付けるアリエーヌ。
確かに、足跡が点々と泥の上に続いているのだ。
この足跡はマーカスのものだろうか?
いや、魔王と激戦をしていた場所なのだ。
マーカス以外に誰がいるというのだ。
もしいたとしたら、そいつは、アホなのか。
まぁ、そんなことは考えにくい。
死の恐怖が支配するあの戦場。
周りの木々ですら焼き尽くす惨状。
普通の人間なら、死んでいるはずだ。
やはり、この足跡はマーカスのものと考えるのが妥当だろう。
だが、なぜ二人分……
今は、もう昼過ぎだ。
夜明けの頃から、時間が経っている。
ならば、自分たちよりも先に、この場所に来た者がいるのかもしれない。
そして、倒れるマーカスを見つけ、介抱しにつれて帰ったのかもしれない。
その証拠に、この二人の足跡は、まるでくっ付くかのように続いている。
なら、マーカスは大けがを負っているのかもしれない。
アリエーヌは、馬に飛び乗ると、再び叫んだ。
「急げ! マーカスはけがを負っている!」
しかし、近衛騎士はアリエーヌをいさめる。
「姫様、恐れながら申し上げます! ここまでの強行行軍によって、馬たちの疲労は限界。馬が持ちませぬ」
「うるさい! ワラワの命令が聞けぬのか! 回復術士! 直ちに馬たちに回復魔法をかけよ!」
回復術士たちは、膝をつき頭を下げる。
「申し訳ございません。走る馬たちに回復魔法をかけ続けていたために、もはやほとんど魔力が残っておりませぬ。あと、数回分を残すのみ……これも、マーカス様のためにとっておいた魔力でございます」
くっ……唇をかみしめるアリエーヌ。
その魔力を使えば、馬たちは回復し、マーカスの跡を追えるかもしれない。
だが、マーカスにたどり着いたとしても、回復魔法が使えなければ意味がない。
ならば、半分の回復術士に馬を回復させ、半分の回復術士を引き連れて後を追う。
馬のスピードを上げなければ、さほど回復魔法の消費も必要ないだろう。
アリエーヌは声を上げる。
「隊を二つに分ける。一つの隊は、馬を回復! 残りの隊はその馬に乗って、ワラワに続くのじゃ!」
追跡するアリエーヌたちは、極力、馬を疲れさせないように、スピードを殺す。
気だけは焦る。
だが、急げば、馬の足元に続くマーカスの足跡も見失う。
この先にマーカスがいるはずじゃ。
だが、日も大分傾き出していた。
朝から顔を出していた太陽は、当然、ぬかるむ泥を乾かしてしまっていた。
先ほどまで続いていたマーカスの足跡が、徐々に薄くなってきたかと思うと、存在を消した。
アリエーヌたちは辺りを見回す。
どこに行ったのじゃ……
ここからは、キサラ王国の城下町がかすかに見える。
ここまで足跡が続いているということは、マーカスはもしかしたら街に戻っているのかもしれない。
ぱっと笑顔になるアリエーヌは、馬の腹を蹴った。
馬は一目散に街へと駆けていく。
それを追う、グラマディたち。
「マーカスゥゥッゥ!」
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