第44話 魔王とバトル!(3)

「ワラワに続くのじゃ!」

 レイピアを振り上げるアリエーヌは、まるでジャンヌダルク!

 我が旗に付き従え!

 調子に乗った彼女は一目散に駆けていく。

 ブルルン! ブルルン!

 意味不明な絶叫を上げながら、脇目も振らずに駆けていく。

 残る三人を置いてけぼり。

 一人単騎で魔王へと突っ込んでいった。

 しかも、朱雀の加護を受けたスピードで……

 もうね……その様子は珍走族……

 訳の分からん旗を持って走り去って行く姿は……めちゃくちゃ寒い。

 寒すぎて誰もその後ろには、ついていけませんがな……

 というか、どこまで行く気や……あいつ……

 まじで、一人で行きおった……

 すでに俺が見るアリエーヌの背中が、指先ほどの大きさになっていた。

 お~い~! 帰っておいでぇ~

 アリエーヌ~ 帰っておいでぇ~

 その願いは、もう、彼女には届くことはないだろう。


 まぁいい、アリエーヌがいなくなったとしても、こちらにはまだ主力が残っているのだ!


 しかし、パイズリアーの一撃を放ったグラマディは、まだ剣を構えなおしていなかった。

 フルスロットルのバカ力で目一杯に振りぬいたものだから、パイズリアーの刀身が地面に中ほどまでめり込んでしまっていたのだ。

 懸命に抜こうと引っ張るものの、まるで抜けない

 足をツッパリ両手に力を込めるも抜けない。

 豚のようにほほを膨らませ顔を真っ赤にするも、一向に抜けない。

 その様子はまるでアーサー王の剣に拒絶されるイギリスの観光客。

 懸命にを引き抜こうとするものの、全く抜けないようである。

 お前には資格がないんだよ……

 さもパイズリアーに言われているような気がしないでもない。

 しかも、パイズリアーしか武具を持たないグラマディの体はいまや無防備。

 とうぜん、触手でめった打ち。

 しかも、先ほどの攻撃で、魔王様かなり逆上していらっしゃるようで。

 攻撃の威力とスピードが増していた。

 いくら玄武の加護を受けているとはいえ、グラマディは白虎のコスチューム。

 防御力アップは、おまけ程度。

 その肌がどんどんと傷を負っていく。

 だが、グラマディの目は輝きを失っていなかった。

 フン! 俺の体は打たれれば打たれるほど力をためていくんだ。

 そして、最後には俺の聖剣で、奴のケツをぶっ叩いてヒイヒイ言わせてやる。

 パイズリアー奥義! 叫べぇぇぇぇ! 無情斬り! てな具合にだ!

 ……て、お前、言うじゃない……

 でも、今、鞭うたれてヒイヒイ言っているのはアナタですから! 

 それ、叫べぇぇぇぇ! 無情斬り! じゃなくて M ! ですから! 残念!

 ――って……お前は、一発屋かよ……

 なんか、かすかに小気味よいギターの音が聞こえたのは気のせいだろう。

 やっぱり脳筋バカに力の白虎をつけた俺がバカだった……

 ちくしょぅぅぅぅ!


 そんなグラマディの体が赤色の光球に包まれた。

 これはデバフ効果の魔法か!

 と言うことは、魔王からの魔法攻撃!

 遂に、魔王も本格的に攻撃を繰り出してきたか!

 だが、魔王は相変わらず、触手をふるっている。

 少々駄々っ子のように、攻撃が無秩序になっているような気がしないでもない。

 と思ったら、グラマディの後ろでキャンディが魔法を詠唱しているではないか。


惨害さんがい百害ひゃくがい害をなせ

 天より災禍さいか垂れ落ちろ!

 我は唱える

 ポイズン!」


 バカか! 

 お前、グラマディに毒をかけてどうすんだよ!

 バカなのか!


 だが、その瞬間グラマディの傷が瞬く間に回復した。

 キャンディが俺を見てにやりと笑う。

 コイツ、もしかしてワザとか!

 バカは俺の方なのか……

 コイツ、意外と賢いとか?


 どうやら、キャンディは先ほどの即死魔法の詠唱で、自分につく青龍の特性を理解したようだ。

 要は、プラスの魔法はマイナスに、マイナスの魔法はプラスに変わる。

 あべこべ魔法だ。

 だが、そのことわりが分かってしまえば簡単な事。

 即死魔法でフル回復するのなら、簡単な傷程度であればポイズンで治るはず!

 理屈はあっている。

 キャンディ……お前、意外と賢いな……

 だが、その特性は、青龍ではなくて、お前自身の特性なのだが……今は言わないでそっとしておこう。


 しかし、俺の感動はここまでだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る