第45話 魔王とバトル!(4)

 自分の可能性に目覚めたキャンディは、感極まってデバフ魔法を連発する。


有情うじょう非情ひじょうの一切よ

 五感の通衢つうく隘路あいろに変えよ 

 パラライズ!」


「愚鈍なる倉卒そうそつの時

 寸陰すんいん無窮むきゅうの闇へと転ぜよ!

 スロウ!」


 もう、調子に乗っているよね、アイツ。

 うんうん……嬉しいのは、分かるよ! 分かる!

 今まで、回復してあげようと思ったら、麻痺ってましたもんね、みんな。

 いくら自分のせいじゃないと言い聞かせても、もしかしたら私の魔法? 私が悪かったの? なんて思ってましたもんね。

 分かるよ。分かる。その気持ち。

 そんな自分が、今では、パーティの回復役!

 ちゃんと司祭としての役割果たしていますもんね。

 そう、仲間から頼られている感、バンバンありますわ。

 そりゃ興奮するのは分かります。


 でもね……触手まで回復させるのはやめようよ……

 回復させる相手がいないからって……魔王まで回復させるのはやめようよ……

 おかげで、先ほどまで瀕死だった魔王まで回復しとるがな。

 やっぱり、コイツ……ただのアホの子や。


 もう、こうなったら、グラスの炎撃魔法に頼るしかない。

 今のグラスは、玄武の力で絶対的な防御力を有している。

 いかに周りがアホでも大丈夫。

 詠唱時の壁役がいなくとも無問題もうまんたい

 今のグラスなら、魔王の触手攻撃など屁でもないわ!

 そんなこんなでグラスは両手を掲げて詠唱を始めた。

 いけぇ! グラス!

 魔王をお前の業火で焼き尽くせ!


「奈落の底で遊惰ゆうだせし

 悠久ゆうきゅう有閑ゆうかんの時を嗟嘆さたんする

 燎原りょうげん業火に身を焦がす

 鬱勃うつぼつの炎龍

 我が盟約に従い、現出せよ

 たぎれ! たぎれ! 煮えたぎれ!

 地獄の深淵より湧きいでし灼熱の業火

 この世の生なるものを焼き尽くせ!

 これこそが! 炎系究極魔法!

 ヘルフレェェーィム」


 しかし、何も起きない。

 そうだった……コイツ、さっき魔法を使い切って、魔法切れの状態だった。

 それが、やっとのことで少し回復したと思ったら、さっきの一発で打ち止め……

 魔力の回復できていなかったのね……

 うん、仕方ない……仕方ないよ……

 だって、マジュインジャーの効力に魔力回復ないもんね……

 というか、そもそも、無計画にぶっ放したお前が悪いんだけどね……

「3.141592……」

 今さら、円周率を唱えても、もう遅いわ!


 役に立たねぇ!

 やっぱり最後に頼りになるのはこの俺自身。

 ならば、俺も変身だ!

「ラブ! 俺たちもJ.C.ポゼッションだ!」

 手に持つピンクスライムに語り掛ける俺。

 その俺の瞳を見つめうなずくピンクスライム。


 その瞬間、俺の体が光に包まれた。

「おはぁぁぁぁん! キモチいい!」


 光の中から、俺の神々しい姿が現れた。

 頭にはピンクのスライムを模したティアラが輝く。

 俺の体をセパレートのコスチュームがレオタードのようにぴっちりと包み込んでいた。

 ピンクのカラーラインがコスチュームに華を添える。

 ノースリーブで肩を露出した脇からは、少々腋毛がはみ出していた。

 腕の先には肘まである白いグローブが、ぱっつんぱっつんになりながら俺の太い指を包みこむ。

 露出されたおなかに覗くおへそが、さらにキモさを2割増し!

 腰に巻かれるミニスカートの内部にはフリル状のアンダースコート、いやプリーフパンツ?

 やっぱりこういったコスチュームならミニですよね! ミニ!

 そこから伸びる筋肉質の足にブーツがピタリと収まり絶対領域に生えた体毛を際立たせる。

 えっ……なんか、読むのやめようかなって声が聞こえてきたような……

 しかないじゃん、ピンクスライムは大体、紅一点のヒロイン役なんだから!

 男性が身にまとうなんて想定してなかったし。

 今まで俺、朱雀とか白虎ばっかり装着してたからね……あれだと、男用のフォームがあるのよ、ちゃんと。見せたかったなぁ、カッコいい俺!




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