第43話 魔王とバトル!(2)

 緑光の球が暗い空間に、ほのかに浮かぶ。


 蛍か……


 いや違う、そんな小さなものではない。

 いうならそれは、ハロウィンでお見掛けする巨大カボチャ。

 その中でも、ギネスに登録されていそうなぐらいの大きさだ。


 その光球が、ふわふわと揺れながら魔王【ドゥームズデイエヴァ 】の元へと飛んでいく。

 しかも緑の球は一個だけではない。

 立て続けに、何個ものカボチャが魔王へとが飛んでいくのだ。


「回復や! 回復! 回復ぅぅぅぅ!」


 キャンディが掲げた手の上で、緑のカボチャ、いや光球がどんどんと成長していく。


「回復しいいや!」


 折り曲げられた上半身の反動とともに光球が飛んでいく。

 だが、その勢いはすぐに収まり、ふわふわと動く。

 まるでシャボン玉。


 緑のシャボン玉は魔王にぶつかるとパチンと弾けた。

 その瞬間、魔王の体がピタリと止まる。

 先ほどまで、暗い空の中でうねっていた触手が、まるでオブジェのように固まった。


 もしかして、マヒっているのか……


 キャンディの回復魔法、いや、回復魔法であって回復魔法でない回復魔法は、魔王に効いているというのか!

 そう、青龍の力によってデバフ効果が増幅されたキャンディの魔法は、魔王の抵抗力をも凌駕する。


 だが、相手は魔王【ドゥームズデイエヴァ 】! 腐っても魔王なのだ!

 数秒の後に、魔王の触手が動き出す。

 忘れていた時間を取り戻すかのように、再びうねりだした。


 しかし、シャボン玉は一つではない。

 おくれて届いたシャボン玉が、パチンと弾ける。


 再び止まる魔王の動き。


 寸秒の後、動き出す触手。


 その様子は、まるでストロボアニメーション。

 断続的に繰り返されるその動きに業を煮やしたのか、魔王は吠える。


「いいかげんにしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」


 一同は思った。

 魔王ってしゃべれるんだって……


 怒り狂った魔王には、すでにもうキャンディのデバフ攻撃が通用しなくなっていた。

 耐性を獲得したのか、それとも、怒りによって増幅されたエネルギーが、キャンディの魔法攻撃を凌駕したのか分からない。

 だが、カクカクとしたぎこちない動きから、ヌルヌルとした流暢で滑らかな舌のような動きに戻っていた。


 今だ、魔法を詠唱し続けるキャンディを触手が襲う。


「今度は僕が守る!」

 そんなキャンディの前にグラスが立ちはだかった。


 その小さな胸、違った! 小さい体を大きく広げ、キャンディを守る。

 無数の触手の槍が勢いを増してグラスを貫く。


 だが、グラスはびくともしない。


 玄武の加護を受けたグラスの体は、今、ものすごい防御力を有した盾と化していた。

 それは、カラドボルグの攻撃にも耐えたコンホヴァル・マク・ネサの盾のようである。

 ……うーん、何のことやら今一俺にはよく分からんのだが、とにかくすごい盾のような気がする


「こんなもんかい……」

 グラスはにやりと笑った。


「今度は僕の番だよ!」

 グラスが詠唱を始めた。


「3.141596……間違えたじゃないかぁぁぁぁぁぁ!」


 円周率ですか……


 うん確かに間違えてますよね、確かにそこは「6」でなくて「2」ですよね……

 というか、なぜ今、円周率?


 その円周率の詠唱こそが、今、間違っているのでは?


「ヘルフレェェーーーーーーーーーィム!!!!!!」

 どーーーーーーーーーん!

 爆音とともに魔王の体が炎に包まれた。


 へっ?


 なに?


 炎撃魔法を放ったのですか?

 というか、円周率を妨害されないと放てないのですか、この魔法!


 目の前に巨大な炎の柱が立ち上る。

 ゆうに樹齢数千年を超えていそうな炎の大木が、その内に魔王を包みこんでいた。


 その激しき業火に身を焦がされる魔王。

 絶叫が、周囲の空気を震わせる。

 その振動は、俺たちの体を突き抜け魂までをも震わせた。


 だが、俺たちの攻撃が、確実に魔王に効いているのだ。


 俺たちは強い!

 俺たちは強い!


 もしかしたら、魔王をぶちのめせるんじゃねぇ!

 このままいけば、魔王、倒せるんじゃねぇ!


 って、2枚のタオルを腰に巻いた俺はまだ、何もしてませんけどね……


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