第17話 今日から俺はマッケンテンナ(4)

 そんな贅沢な食事をした数日後の事だった。


 俺とマジュインジャーの仲間たちは、相も変わらず森の中で遊んでいた。

 だが、ふと、俺は思い出した。

 今朝、母から遊びに行く前に言われていたことを。


「ヒイロ。今日は早く帰って来てね」

 一体何の用だろう。


 今日は、俺の誕生日でもないし、お母さんの誕生日でもない。

 もしかして父さんの命日だっただろうか?

 いや、それも違うような気がする。

 というかいつだったっけ?


 すでに7歳となっている俺は、学校にも行かず遊びほうける毎日だった。

 ズルじゃないぞ!

 だって、学校に行くお金なんてうちにはないわけで。

 かといって、母を手伝うわけでもなく、ただただ遊ぶだけ。

 まぁ、母もまた俺に仕事を手伝えとは言わなかった。

 というか、お母さん……なんの、仕事をしているんだろうか?


 俺は、母との約束を思い出すと急いで家路についた。

 まだ太陽が真上にある時間に家に帰るのは初めてかもしれない。


 岩を飛び越え、木々の間を縫うように走る。

 毎日やっていると、こんな動きも簡単にできるようになっていた。

 だが、それよりもすごいのはマジュインジャーの仲間たち。

 ヒヨコやアオダイショウのくせに俺の動きについてくる。

 ミドリガメに至っては、すでに歩かず高速で転がっているのだ。


 早い!


 横目で見る俺をバカにするかのように笑うマジュインジャー


 くそ! 負けるものか!


 加速する俺の体が森の影から飛び出した。

 一気に右足を踏ん張って、低く構えた体でバランスをとる。

 地面をすべる足が、砂をこする音とともに土埃を立てていく。

 その刹那、俺の体は直角に跳ねた。


 しかし、転がるカメは急には止まれない。

 回転の勢いをそのままに森から飛び出し道を横切る。

 そして、道に沿って流れる小川にポチャンと落ちた。


 だが、ヒヨコとアオダイショウは俺についてくる。

 ヒヨコもまた足を滑らせ直角に曲がる。

 アオダイショウに至っては、木の枝に巻き付きその遠心力で体を反転させた。


 やるな!


 目の前に家の屋根が見えてきた。

 小川にかかる橋を渡れば、そこがゴールだ。

 三匹の体が、さらに加速する。

 小さき橋。

 先に橋に入ったほうが勝ちである。

 三匹は我先にその橋に突っ込もうと体を競り合った。

 だが、俺のほうが足は長い!

 俺の足が橋の天板を踏みしめた!


 勝った!


 と、思ったその時だった。

 小川の中から何かが飛び上がった。


 なんだ!


 水滴をまとう丸き影。

 太陽を背に浮かぶ黒い影


 こ……こいつは……


 宙を舞う水滴がキラキラと輝く。

 一瞬、時間がスローのように感じた。

 その影は、俺の前方にすとんと降りた。

 なんとそれは、川に落ちたと思われたミドリガメ!


 くそ! 水の中では奴のほうが上か!


 再び、転がりだすミドリガメ!


 万事休すか!


 だが、そんなとき、俺の頭上を何かの影が飛んだ。

 そう子猫である。

 子猫のやつ、今の今まで俺の頭に引っ付いていたのだ。

 そして、満を持して俺の頭の上から飛び出した。

 さらに目の前でころがる甲羅を踏み台にして跳躍する。

 後ろ足に押し出されるミドリガメが再び小川にポチャン。

 子猫は一気にトップに躍り出た。

 しかも、体力を完璧に温存しているときていやがる!


 こ……これはかなりマズイ!


 子猫は走りながら後ろ振り向く余裕を見せた。


「させるかあぁぁぁ!」


 俺は、とっさに、左足を振り上げた。

 その勢いをそのままに、その足を地面に叩き込む。

 それと同時に体がひねる。

「うおぉぉぉぉぉ!」

 高速で振りぬかれる右腕の先から、ピンクの弾丸がはじけ飛ぶ。


 こちらを振り向いていた子猫の顔面をピンクスライムが直撃した。

 吹き飛ぶ子猫とピンクスライム。

 二つの小さき体が弧を描く。


 今日も俺が一番だ!


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