第11話 マジュインジャー誕生(4)
だが、地面に衝突する直前、俺の体は跳ねた。
柔らかい何かにはじかれるように、ポヨンとはねた。
何度かバウンドしたのちに、そのピンクの柔らかい物体の上で俺の体は動きを止めた。
俺の体の下には、大きなピンクの塊が。
すると、大きなピンクの塊は、どんどんとその形を変えていく。
そして、俺をピンクの両の手に救うと地面にそっと置いた。
見上げる先には、ピンク色のドラゴン。
そう、ピンクスライムドラゴンがいた。
スライムドラゴンは、大きな口を広げるとケロべロスの背中に噛みついた。
ケロべロスの体を己が体内にどんどんと取り込んでいく。
取り込まれたケロべロスの体から無数の気泡が立っていく。
どうやら奴の体が溶けているようだ。
もがくケロべロス。
中からピンクスライムの体表を無我夢中でひっかいていた。
だが、びくともしない。
げぷっ!
ゲップと共にケロべロスの体が全てスライムドラゴンの体の中に取り込まれてしまった。
ケロべロスの表皮がものすごい勢いで溶けていく。
その様子は、放送禁止用語でも表せないぐらい、ものすごくグロイものだった。
……ただいま放送休止中……
ペッ! という音ともに、スライムドラゴンが何かを吐き出した。
地面に転がるケロべロスの骨。
どうやら、ケロべロスのお肉は、スライムによって消化されてしまった。
その様子を呆然と見つめる俺……
だが、不思議なことに痛みが消えている。
ふと肩の様子を見てみると、緑色の光が傷口を覆っていた。
回復魔法?
青龍が、首をふり俺の傷口の様子を心配そうに確認している。
おそらく、この青龍が回復魔法をかけ止血してくれたのだろう。
だが、亡くなった腕が生えてくるわけではない……
でも、命が助かっただけよしとするしかないよな……
満腹の様子のスライムドラゴンが、ゆっくりと体を引きずりながら俺に近づいてきた。
そして、俺の頬に、自分の頬を重ね合わせる。
その刹那、ドラゴンの体が消え去った。
いや、消えたというより、パンと弾けた。
俺の頭の上から、大量のピンク液体が降ってきた。
まるで、バケツをひっくりかえしたかのようにドバっとである。
あたり一面は、大量のピンクの液体によって大きな水たまりが出来上がっていた。
当然、俺はびしょびしょ。
濡れた短髪の黒髪が、顔に垂れ落ち引っ付いていた。
うっとおしい!
俺は、顔につくその髪を手で拭った。
⁉
今、俺は何をしたんだ……
とっさに俺はあるはずもない両の手を見た。
しかし、そこには手がちゃんとある。
俺の手が、ふたつともあったのだ。
見つめる手のひらが震える。
スライムが溶けると同時に、俺の両の手が復活した。
生えてきたのか、どうかは分からないが、とにかくあるのだ。
両の手が。
俺はその手で顔を覆いうずくまった。
温かい……
俺の体温だ……
その場で俺はアホみたいに泣いていた。
そんな俺を、朱雀と玄武と白虎、青龍が取り囲んでいた。
ひとしきり泣いた俺は顔を上げた。
ケロべロスの難は去ったが、今や4匹の魔獣に囲まれているのである。
前は1匹、今度は4匹。
よくよく考えると、状況はさらに悪くなっている。
どうしたものか……
しかし、あたりを見回しても4匹の魔獣の姿は見えない。
もうどこかに逃げたのか……
俺の周りでは、いつもどおりヒヨコとミドリガメと子猫とアオダイショウが心配そうに俺を見つめていた。
この四匹を見つめる俺は思った。
もしかして、あの魔獣はこいつらとか……まさかね。
だが、一匹いない。
いつもいるべきピンクスライムがいない。
ということは、あのピンクスライムドラゴンが、あのスライムだったのか。
俺はとっさに、ピンクの水たまりを探した。
そこには、いつもよりも小さくなったピンクスライムが親指ほどの大きさになって、すやすやと寝息を立てて転がっていた。
俺は、小さなピンクスライムを両手ですくい、家路についた。
ヒヨコが朱雀になった。
子猫が白虎になった。
アオダイショウが、青龍となった
ミドリガメが玄武になった。
そして、今手の上に乗るスライムがピンクスライムドラゴンへと変わった。
5人の仲間!
5人の頼もしい仲間!
そして、その仲間たちを束ねる俺!
これって、結構、面白い!
というか、俺たち、超カッコいい!
炎のように燃え上がれ! 赤き知性! レッドの朱雀!
敵を切り裂け! 白き
優しき光! 皆を癒す青き竜! ブルーの青龍!
緑の甲羅は、鉄壁の信念! グリーンの玄武!
みんなは私が守ってみせる! ピンクスライム!
そして、俺がリーダーだ!
行くぞ! 正義の名のもとに!
弱きものが呼んでいる!
我らは魔獣!
【魔獣戦隊マジュインジャー!】
ドーーーーーーん!
道の真ん中で格好をつける俺の脳内で、5色の爆炎が上がっていたのはココだけの話だ。
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