不眠症のアマチュア探偵と、彼の元に相談を持ちかける依頼人のお話。
現代日本の片隅、夜の街や闇社会の一端を舞台にした、堅実な現代ドラマです。
分量にしてわずか4,000文字強と、気軽にサクッと読めちゃう小品であるにも関わらず、この内容の完成度と満足感たるや! 決して少なくない登場人物に、主人公の活躍の拠点である魅力的な場、その上で事件の発生と解決があり、さらには依頼人である旧友との関係性まで。これらが単にてんこ盛りというだけでなく、ごく自然に描かれているところが、もう本当に魔法のようでした。
魅力的な点はたくさんありますが、個人的には登場人物の関係性、彼らの間に内在するであろうドラマが好きです。本当に「であろう」というくらいの描写で、決して饒舌すぎない範囲で想像させてくれるところ。
滝口さん(主人公)と千秋さん(相談者)の過去然り、また真木さんとの繋がり然り。あるいは、言うなれば悪役サイド的な人物である、ヒスイくんと大前くんの関係についても。この辺、実質ほとんど語られていないにも関わらず、それでも伝わってくるもの手触りが最高でした。いわゆる想像の余地のような楽しみ。
また、人同士の関係性に限らず、いろいろと複雑な事情や業のようなものさえも含んだ、大変読み応えのある物語でした。読み取れるものの多さが本当にたまらないお話!