第2話後編 蟹の月の4日午後。《先輩との交流・学園探索》
という訳で【灰雀】寮を出て地図を頼りに学園の本校舎へと帰ってきたのだ。先に商業施設に行っても良かったのだが、多分そっちに行くと校舎を見て回る時間が無くなりそうなので先にこっちに来ることにした。
本校舎は2階建てで、1階は教員室や図書室、倉庫と【教養科】の講義室があり、2階に【魔術科】講義室となっている。【教養科】の講義室は一室だけとなっているが、【魔術科】は部門ごとに分かれておりそれぞれ召喚術部門、治癒魔法部門、攻撃魔法部門の3部門で、部門ごとの講義室がある……らしい。寮を出る前に回収してきたパンフレットの情報で私は実物を知らないから分かんないけど。ちなみに【戦闘科】と【技術科】は本校舎ではなく専用の設備で講義を行うらしい。
この学園は基本的にどの講義を受けるのも自由らしく、別に4学科のうち1学科のみを専攻してもいいらしい。その場合期末テストは専攻学科のみになる代わりに他の学科も満遍なく受けている生徒よりも内容が難しいものになるらしい。これだけ聞くと専攻した方が得なような気がするが、実際どうなんだろうか?
まぁ、まだ分からないことばかりなのでここで考えても仕方ないし、向かってみるとしよう。1番近いのは【教養科】の講義室だ。多分誰もいないだろうけど部屋の中だけ覗いておこう。どういう部屋なのかも気になるし。というか廊下広い。人が5人くらい並んでも全然余裕がありそうだし、なんなら肩車して歩いていても天井に頭が当たるとかもなさそうなくらいには広いし高い。床とか壁も新築と見間違えるくらいには綺麗に清掃されている。凄いなここ。
しばらく歩いていると、教養科講義室とプレートがかけられている部屋があった。あったのだが
……なんか、立ち入り禁止って書かれた紙も貼ってあるんだけど。
なんで立ち入り禁止……?ここ教養科の講義室であっているよね?魔術科とか戦闘科みたいな怪我の危険があるような科目じゃないと思うんだけど……?
怖いと言ったら怖いのだが、なんか見てみたい気もする。これが怖いもの見たさと言うやつだろうか……よし。
「百聞は一見にしかず」という言葉が日の国にはあるそうだ。何事も自ら行動し、目で見ない限り分からないのだ。ドアノブに手をかけ、扉を開ける。ざっと50人ほどは入れそうな大部屋が拡がっている。そんな講義室の教壇に。
「人……?」
教卓にもたれ掛かるように白衣の人が倒れていた。教卓の上にはフラスコやらなんやらが散乱しており、なんか怪しげな色合いの液体が零れている。しかもよく目を凝らせば講義室内にはこれまたなんか怪しげな薄紫色の煙が蔓延しており、見た感じ煙は液体から立ち上っているようだった。即刻見なかった事にして部屋を立ち去りたいところだがこんなやばい状況の部屋に倒れているあの人の様態は無事ではない気がする。気は進まないが助けるとしよう。入学初日で第1死体発見者になるとか嫌すぎる。
ーーー数分後。
ぜぇ……ぜぇ……お、重かった……。
成人男性を抱えて移動とか私ができる訳もなく、試行錯誤の末にようやっと廊下に引きずり出すことが出来た。途中何回か嫌な音がしていたが多分大丈夫だろう。所謂コラテラル・ダメージと言うやつだ。人命を救う上で必要な犠牲だったんだ。ちなみに途中何回か息を吸ってしまったが、別にこれといった異常はなくむしろなんか良い香りだった。本当になんなんだろうかあの煙。
さて。
「起きろ、起きて。起きろください」
未だ目を覚まさない白衣の男性を揺さぶりまくる。何回揺さぶっても目を覚まさないので頬を叩いてみる。結構強めに。
ーーーこれまた数分後。
まっっっっったく起きる様子がないんだけど?もう頬が腫れ上がってもはや原型残ってないくらいになっているのに未だ起きないんだけど?死んでないかこれ?
「……どうしよう」
……よし、冷静になろう。一応ここは学校なんだ、探せばどこかに保健室とかあるはずだ。地図、地図……えっと、ここから医務室は……うわぁ、遠い。真反対も真反対である。部屋から出すだけでも大変だったのに。誰かに助けを求めようにも全く人気なくてそもそも人がいるかも分かんないし。
……はぁ。仕方ない、連れて行こう。
男性の肩に手を回し、何とか持ち上げて歩き出す。ふらふらして危ないけど、引き摺るよりましな筈。
頑張ろう。
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はぁ……はぁ……くっそ疲れたっ……!途中コケかけるし、嫌に医務室遠いし、廊下が長すぎる!改めて思ったんだけど滅茶苦茶廊下長いんだけどこの学校!敷地面積広いからって流石に廊下広く長く作りすぎではないだろうか。是非とも改築して貰いたい所存である。
ちなみに白衣の男性(推定【教養科】教員)さんは既に医務室のベッドに運送済みである。幸い養護教諭さんがいたのであとは任せて私は次の講義室に向かっている最中である。次の目的地は【魔術科】講義室だ。【魔術科】かぁ……。……うん、正直気乗りしないけど行ってみよう。魔力がなくても知識を付けることはできるはずだし。敵を知るにはまず自分からって訳では無いが、もし魔術を使う相手と戦う際に魔術についての知識があればそれなりの対応もできるようになるはずだ。まぁこの平和な時代で戦うものといったら魔物とか野生の動物程度だろうけど。山賊とか盗賊もいない訳では無いけど、滅多に話に聞かないしなぁ……。
意気揚々と校内に入り、地図に従って通路を歩いていく。階段をあがり、2階へ。しばらく歩いていると魔術科召喚魔法講義室と書かれたプレートを見つけた。今度はさっきの立ち入り禁止の紙もない。鍵は……かかっているか。というかそもそもさっきの部屋にいた男性は何故鍵をかけなかったんだろう今更の話だけど。
取り敢えずここは諦め、次の魔術科回復魔法講義室へと向かう。いちいち名前長いなこれ。漢字をつらつら並べてかっこいいが通用するのは12、3歳くらいまでだぞ。なんて事を考えているうちに回復魔法の講義室に辿り着いた。ここも鍵が……かかっているね、うん。まぁさっきのような事が2回起きても困るのだが。さて、次の部屋へ行くとしよう。攻撃魔法か。
……そういえば、お父さんの知り合いに攻撃魔法の講師をしている人がいるんだっけか。ここの教師だったっけ?名前は……ちょっと覚えていないな。なんだったっけ?なんか、【魔女】とか言われているって話は覚えているんだけど。なんでも【大征伐戦】の時代に生まれ、不老不死の魔術を幼い頃に習得し自らに唱えた為300年間死なず未だ幼少の頃の姿のままだとかなんとか。まぁ話に聞いただけなので本当か嘘か知らないんだけど。そもそもあんな人の話真面目に信じる気もないし。
「あ、魔力が少ない子!」
「うぐっ!」
ただ廊下を歩いていただけなのに突然心を貫かれた。私が何をしたって言うんだ。ただ人よりも少し生まれが特殊なだけじゃないか……。
「ええっ!?なんで倒れたの!?」
パタパタと私を殺した被疑者が駆け寄ってくる。なんでも何も致命の一撃を与えてきたのは他でもないあなたな訳でして。
「ええっと……大丈夫かしら?」
かがんで顔を覗き込んでくる。聞き覚えのある声だなーと思ったらこの人入学前の検査の時にちょこっと話した【魔術科】教員の人じゃないですか。なんですか、私にトドメを刺しに来たんですか。どうせ私は魔力量ゴミカスの負け犬ですよ……。
「医務室まで連れてってあげましょうか?」
「……大丈夫です」
いつまでもへそを曲げている訳にもいかないので起き上がる。しかし本当にこの人なんで話しかけてきたんだろう。
「ごめんなさいね、見かけたものだから何しているのかしらって思って」
「いえ、ちょっと学園を探索していただけですので……」
「初めて来た場所だもんね。確かに講義室の場所を把握しておきたいわよね」
「そうですね……」
「そういえばまだ自己紹介していなかったわね。私は『シャリア・ホーキンス』よ。魔術科の召喚術部門の教師をしているわ」
「レイ・Sです。苗字はちょっと……」
「ええ、知っているわ。大丈夫、アザム先生が言っていたかもしれないけど、この学園の教員はみんな事情を知っているから!」
腰に手を当て、ムフーっと息吐きながら胸を張る。なんというか、雰囲気はふわっとしているというか、のほほんオーラが醸し出しているな。なんとなくだけど生徒に人気そうだ。
「アザム先生にも言われたかもしれないけれど、何かあったら私たち先生を頼ってね!それじゃ!」
「えっ、あっ」
それだけ言うと足早に立ち去っていった。
……えっ、本当になんだったの?
ちなみに攻撃魔法講義室は鍵がかかっていました。結局全部鍵かかっているのかよ。
〜凡人の成長物語〜才能だけの女が才能もある女へと成長する話〜 如月二十一 @goodponzu2525
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