反省したんで転生先でやり直させてください。〜悪の秘密結社、ボランティア団体化計画

愛好栗一夢

本文

 「永森ながもり 拓也たくや…殺人罪により死刑に処する‼︎」


 あれから約十日、俺は檻の中で死を待っている。未だにその日は伝えられていない。

 …正直暇で暇で仕方ない。

 またあの日々に戻りたい…が、正直死に際の苦しさってのも味わってみたい…

 あいつらがどうしてあそこまで苦しむのか…俺自身も味わってみたい。


 「76番…時間だ。」

 看守に告げられた。ああ、ついに俺は地獄に落ちるのか…少し楽しみではあるが、やはり、死ぬということは少し怖い。


 俺は紐を首にかけ、台にたった。…準備は整った。いつきても構わない。一人の男が…合図を出した。


  

  ━ドクンッドクンッ


 心臓が脈打つ音が聞こえる…それと同時に燃えるようにあつく…猛烈な吐き気が襲った。


  ━ドクンッドクンッ


 脈打つ音は次第に速くなっていく。からだのあつさもどんどんとあつく…煮えたぎるように…


  ━ドクンッドクンッドクンッ


 何も見えない世界で、ただただこの音だけが聞こえる。


  ━ドクンッドクンッドクンッ!!!


 …この音を最後に、俺の世界は真っ暗な闇に包まれた。


 

 俺は首を絞めて人を殺すのが得意だった。大好きだった。

 自らの手で、力で!…人が苦しむのを見るのが好きだった。

 …俺は今、首を絞められて殺された。あいつらと同じ感覚を味わったってことだ。

 

 俺はこんなこと言うべきでないのかもしれんが…恐ろしかった。


 いつ終わるのかわからない苦しみ、今までに感じたことのない煮えたぎるようなあつさ、吐き気…体まで絞められるような感覚…ああ、最悪だ。最悪以外の何ものでもない。


 俺は今まで…こんな恐ろしいことをしていたのか…?ははっ…自分にドン引きしちまうな…。


 気付くのが遅すぎたな…死んじまったもんは変わんねーし、ま、地獄で罪は償うか…

 それでも許されないようなことをしたのに、たった今気づいたなんて…なんであんなに楽しかったんだろ。


 …これが後悔と絶望ってやつか、今の俺にお似合いだ。

 俺今どこにいんのかわかんねーけど…地獄に着くまで寝てますか…



 あれからしばらく経ったな…光が眩しい、炎か何かか?

 「…ここは地獄か?」

 いや、どう見たって違う。なんだ、ここは?部屋…?とても穏やかな場所だ…こんなところが地獄なわけない…俺はどこへ来ちまったんだ?


 「おい、タクヤ…約束の時間だぜ?」


 俺の名前⁉︎知り合いがいるのか⁉︎…そこに立っているのは見知らぬオヤジだった…?


 ━なんだ?この記憶は…?頭が混乱するぐらい全く知らない記憶が入り込んでくる…!



        全部繋がった。

   …そうか、俺、生まれ変わったのか。


 あれからしばらくじゃない、何年も経ってたんだ。この体になって、何年も経ってるんだ。

 今の俺は…記憶によれば10歳…今までの間、『俺』としての記憶を無くしていたんだ。


 少年タクヤとして、この世界で生きていたんだ。


 記憶によればこの世界は俺が住んでいた世界とは別の世界…つまり、異世界ってやつみたいだ。

 そんでこの見知らぬオヤジは俺の父さんみたいだな。


 「…みんな待ってる、いくぞ」

 「うん、わかった」



 俺は父さんに連れられ、大きな部屋に出た。沢山の人たちが、俺たちに拍手を送っている。


「…わかってるやつ多いと思うが、この前の戦いで、俺は大きな損害を負った…今立っているのは魔法による補助のおかげ。立っているのがやっとだ」


 父さんはみんなに向かって掠れた声で言い、「この通りだ」と両手を広げた。


「俺の復帰はもうないと言っても過言ではない。…そこでだ」


 父さんは俺を前に出し、ありったけの声で叫んだ。


「「我が息子、タクヤを!秘密結社『悪人パラダイスだお☆』のボスとする‼︎」」


  「「「うぉぉぉぉぉおおおお!!!!」」」


 そう、俺の父さんは…名前が非常になんとも言えない悪の秘密結社のボスなのである。

 しかしこの前にあった敵との戦いで大きなダメージを食らったのだ。(ちなみにこの世界には魔法があるようだ)

 最早再起不能…ということで、今は10歳となった俺が若くして後を継ぐことになったのだ。



 だが、正直俺は…まともに後を継ぐ気はない。


 悪の修羅道はもうごめんだ。


 あれを機にして俺は変わったのかもしれない。



 この集会が終わった後、俺は父さんがいる部屋へ向かった。


 ━コンコンッ 「入るよ、父さん」


「…ああ、タクヤか。呼び出してすまないな。」

 父さんの方へ近づいた。父さんは重そうな体をゆっくりあげて、俺の方を見た。

「すまねぇな、突然の頼みなのに引き受けてくれてよ…」

 俺がこの頼みを引き受けたのは昨日のこと。まさに突然の頼みだったのだ。

「父さんが困ってるなら…息子として助けたいのは当然だよ。」

「…はは、子供らしからぬこと言うな…だが、そんなこと言えるくらいには成長してしたわけだ。任せても大丈夫そうだな…!」

 父さんは静かに微笑んだ。そして一度目を瞑り、真剣な顔でこちらを再び見てこう言った。

「お前がボスになる…つまり、これからはみんなお前に従うってことだ。それ以外にも、どんな組織にするかもお前次第だ。…責任重大だぜ?タクヤ…覚悟できてるか?」


 ━責任重大…この言葉に重みを感じた。


 なぜなら俺は、父さんが作った組織を一度…壊すことになるのだから。


 一言一言を噛み締めるように…父さんに伝えた。


「父さん…俺、この組織を変えようと思うんだ!」


 父さんは一瞬固まったが、しばらくした後には優しい笑みを浮かべていた。

「ほう…面白えじゃねぇか!で、どんな風に変えるつもりだ?」

 何言われるかわからない恐怖感を一瞬だけ感じた…が、一言で思いきりいいきった。


 「この組織を…ボランティア団体にするッ‼︎」


 「…プッ…はははははは!面白えなマジで!」


 しばらくの沈黙が続いた後、父さんは笑った。…まさかそんな反応をするとは思わなかった…

 だってこの組織で悪の道をずっと歩いてきた男だぞ…⁉︎てっきり怒るのかと…


「さっき言っただろ、どんな組織にするのかもお前次第だって…お前がそうしたいなら、そうすりゃいい。それで離れてく奴らはほっとけ…本当にお前について来るやつだけ相手にしろ…!」


 父さんはそう言ってまたベットに寝転んでしまった。

「じゃ、あとは頑張れよ…」


 翌日、俺は決意を固めてこのことを皆に伝えた。それを聞いた奴らのほとんどは離れてった。

 …やはりならず者たちの集まりであったがゆえに、いきなりボランティアを始めるとか言い出したらそりゃ、離れていくはずだろうな。

 ただ、ありがたいことに三人だけは俺の元に残ってくれた。

 その三人について、父さんに聞いてみると…


 一人目は獣人族の少女、ジゼル・アミ。

 ジゼルはおてんばで楽しいことが好きな少女である。

 元々は捨てられていた子供だったらしいがとうさんが拾って、組織内で育ててたらしい。

 それゆえか、父さんに恩を感じていてどこまでもついていくと誓ったそうだ。

 この組織にいたからと言い、全くの悪意はなく、ただ純粋に父さんについていきたかっただけだそうだ。


 二人目は堕天使の青年、バルトロメウス・アードラースヘルム。…名前が長いため、父さんからはバルトロと呼ばれている。

 長髪で常に笑顔を浮かべ、紳士的だが食えない男、らしい。

 父さん…実はコイツが裏で話していたことを聞いてしまったらしく、組織のボスの座を奪い、世界征服をする…というのが組織に入った目的らしい。

 父さん曰く、まあ何とかなるけど注意しろ…とのことだ。


 三人目は謎の魔法使い、フランシスクス。…またまた名前が長いからフランと呼ばれている。

 フランは実態がなく、黒い謎の物体が本体のようだ。そこにローブととんがり帽子をまとっている。

 よく近所にいるようなおばさんの口調で喋り、面倒見がいい姉御肌らしい。

 組織に入った理由は魔法を極めるためで、そのためなら組織は別にどんなところでもいいとのこと。

 先程おばさん口調で姉御肌と言ったが…彼、男である。つまり、俗に言うオネエというやつだ。


 これまた異色揃いの三人が、現在の俺の仲間というわけだ。

 そしてこれからはこの…なんとも言えない名前の悪の組織も、普通にする。


 これよりこの組織は…ボランティア団体となる!


 「…とはいえ、ボランティアって何すんだ?」

 これまで俺はボランティアなんて無縁の世界にいたからな…やろうと言ったが何するのか…

 やっぱりゴミ拾いか?キャップ集めとか…地域の草むしりとかもありだな。

「リーダー、ここは無難に募金活動はいかがですかな?」

 バルトロが一つの段ボールを持ってきて提案した。

「この箱を使えば…募金箱を作ることもできるでしょう…!」

「でもさバルトロちゃん、集まったお金はどこに寄付するのよぉ?被災地とか貧困層への補助は国の機関のお金で足りてるはずよぉ?」

 フランが行政に関する紙を見せた。確かに、お金はどこにも十分行き渡っている。

「それはもちろんワタシ…いえ、足りていても寄付するのですよ!金はいくらあっても困りませんからね!」

 …バルトロ、黒い一面が見えそうになってるぞ。だが、確かに金はいくらあっても困りはしないからな。

「ジゼルは楽しければなんでもいーのみゃ!」

 …ジゼルはただただ床で転がってるだけだ。

「こらジゼルッ‼︎あなたも会話に参加しなさいな‼︎」

「バルトロうるさいー!ジゼルはねたいのみゃー!」

「全く…困った子たちねぇ…」


 しばらくした後…フランが二人をまとめてくれたおかげで、スムーズに話に戻れた。

「それでリーダー、アタシたちは何をすればいいのかしら?」

「…そうだな、募金はおいおいやることにする。まず俺たちのこと、組織のことを世間に知られなくては、疑われてしまう可能性もあるからな。」

 実際俺の生前の世界には募金…とか言っときながら自分の会社のために使ってる奴らもいたしな。

 それと疑われるのはごめんだ。

「まずは簡単なことから始め、皆に知ってもらうことだ。」

「…チッ…コホン確かにそうですな。さまざまなことをする上で、知名度は大切になってきますからね!」

 一瞬舌打ちしたように聞こえたが気のせいだろう。…正直言うとバルトロってわかりやすい気がする。

「はいはーい!ジゼルからてーあん!みんなでゴミ拾いスタンプラリーやるのはー?楽しそうだみゃー!」

 さっきまで寝てたジゼルが元気よく飛び跳ねた。

「スタンプラリーってことは…景品も必要だな。」

 俺がそうやって呟くと、フランがうーんと唸りながら、

「でもアタシたちには景品を用意するだけのお金はないわよぉ?この案は難しいと思うわ…」

と言って、「この通りよ」とすっからかんの貯金箱を見せた。

「大組織だったけど、一度解散しちゃったしねぇ…リーダーはいい子ちゃんだから必要最低限のお金だけもらって、それ以外は前代ボス…お父さんのために使っちゃったのよね」

 そう、俺は資金のほとんどを父さんのために回した。だから今、こんなに金がなくて困ってる…

 だが、これでいい。父さんのためだ。後悔はない。

「お金がないならやはり募金で…!」

「だからバルトロちゃん!募金は今度って!」

 …話が進まない。俺は立ち上がってドアの方へ向かった。

「あれ?リーダーどこいくみゃ?」

「悪い、ちょっと考えてくる。みんなもここで考えててくれ。」


 さてと、考えると言って基地から出てきてしまったが…これには訳がある。

 元の世界での中学生だか高校生の頃、ボランティアは街に足りないものを作るのもボランティア、と聞いたことがある。

 授業はほぼ寝てたけど、これだけは聞こえた。ここで役に立つとはな。

 

 そう、俺が出てきた理由…町中を回って足りないところを探すことだ。


 …とは言ったものの、ほとんどのものは魔法とか国が解決してくれるし…足りないものなど…

 

      「ねーねー、ママー?」


 …?親子連れか…なにはなしてるんだ?もしかしたら何か参考になるかも…聞いてみるか。


 「僕の家の近くってこーえんないの?」

「公園ねぇ…このお国はちっちゃいから、となりのお国の公園で我慢しましょうね」

 「はーい!」


 …そうか、公園か‼︎確かにこの国には公園がない!ただ、国のお金は十分ある代わり、全ての使い道が計画的に決まっている…なるほど、これなら完璧だ。

 俺は急いで来た道を戻った。



 「お前ら‼︎パーフェクトスケジュールだ‼︎」

 「あ、おかえリーダーみゃー!」

 「急に大声上げてどうしたのよぉ?」

 「お帰りなさいませ!何か思いついたようで!」


 つい張り切って大声を上げてしまった。そう、これこそがパーフェクトスケジュールだ!


    「…この国に、公園を作る!」


「…公園、ですか。なかなか良い案だと思いますぞ!」

「でも国のお金は出せないわよ?全部使い道が決まってるわ…」

「えー?公園作るって、ジゼルたちでできるのー?」


 予想通りの返答だ。「まあ聞けって」とフランとジゼルを止めると、俺の中での計画を話し出した。


「確かに、国の方では金は出ない。…そこでだ、バルトロがずっと言ってた募金の出番だ!」


「でもリーダー、アンタさっき言ってたじゃなぁい?疑われるかもって…」


「ああ、そして…公園を作ると言っても、国の許しも必要…そこで、四人で手分けし、国民に署名をしてもらう。この国には子供が多い…子連れは大歓迎だろう!それに…話しかけてれば、自然と俺らの知名度も上がってくしな!ましてや国の許しが出れば…」


「…募金しても疑われにくいわね!やるじゃないリーダー!」


「そーゆーことだ!みんな、乗ってくれるか?」


「よく分かんないけど面白そーだみゃ!ジゼルやるー!」

「確かに、パーフェクトですな!やりましょう!」

「アタシも賛成!これならいけるんじゃない?」


 全会一致だな…俺にしてはいいこと思いつくじゃねぇか!

「よし、そんじゃ!明日から署名活動開始だ!」


     「「「「おー!!!!」」」」



 翌日、俺たちは手分けしてさまざまな場所を巡った。

 俺は北の地域担当だった。

 北は裕福層のものたちが多く住んでいた。

 正直俺は、裕福層に偏見を持っていたのか、あまり関わりたくなかったが…話してみると、いい人ばかりだ。

 彼ら、彼女らも子供だけでなく、大人同士の交流の場としても、公園の設立を希望してるものが多く、沢山の人に署名してもらえた。


 「…で、お前らはどうだった?」

 俺が聞くと、「はいはーい!」とジゼルが元気よく手を挙げた。

 

「えっとねー!西の方はね、公園作りたい人ー!って言ったらいーっぱい子供たちが集まってくれてー、お名前かいてくれたみゃー!」


「…おお!上出来だジゼル!」

 …保護者の名前もちゃんとある。軽く一万人はいるぞ…⁉︎ジゼルの人を集めるような性格もすごいが…やはり西地域に子供が多く集まってるんだな…。


「次は東ね…東も同じく、子供が多かったわ!ジゼルちゃんほど人は集められなかったけど…アタシなりに頑張ってみたのよ、これで許して!」


「いや、よく頑張ったフラン!これだけあれば十分だ!」

 フランはその見た目からまず怪しがられて人があまり近寄らないからな…ただ、かなりの数は集まっている!


「ワタシが訪れた南地域には高齢の方がたくさんおられましたな…ボケ老人どもは公園でまったりボケるのをお望みのようですな…ククク…おっと失礼、口が滑りました!」


「…集まってるし、まあいいか。」

 バルトロは口だけは達者だ。人を惹きつけるための言葉や話し方をわかってる…いや、コイツのことだからなんか脅したとかってのもあり得そうだが…

 まあ、こっちも十分…ではあるが…


「…まだ時間あるな…ちょっと南だけ少なくてバランスが悪い。みんなでもう一度行ってみるか。」

「おや、ワタシの分は不十分でしたかな?」

「いや、十分だが他と比べると少し少ない。みんなでもう一度集まれば、すぐ済む話だ。」

 俺たちは魔法ガソリン式タクシーを呼び、南地域へ向かった。



 …南地域についたが…なんだここは?ど田舎の山奥か?

「聞いてた話通りねぇ…南地域はおじいちゃんとおばあちゃんが多くて、人口が少ないのよ…」

 なるほど、過疎地域か。どうりでここだけど田舎風景な訳だ。

 

 こりゃ少し解決すべき問題が増えたな…人口問題も重要だな。まあそれはおいおいやっていくとして…


 ここまでど田舎ならバルトロの集めた署名が少ないのは納得だ。さて、どのくらい追加で集められるか…

「一時間後、またここに集合だ。それぞれ追加の署名を集めてくるように!」

 

 俺は集落の方へ向かった。…とは言え、だーれも住んでなさそうなほど静かだが…

「あんれぇ?お坊ちゃん、こんなとこに何の用だべ?」

 一人のおじいさんが話しかけてきた。…田舎の訛りだな。俺は正直都会生まれの都会育ちだからか訛りがあると聞きづらい…別に馬鹿にしてるわけではないが。

「公園を作るための署名集めを行ってるんです。よければお願いします。」

 おじいさんは顎の髭を触ってうーんと唸った。

「公園?はぁ〜すんごいモンつくんだべなぁ?ほれ、それかしてみぃ、書いとくべ」

 おじいさんは署名をしてくれた。その後に集落の人たちに話して、全員が署名してくれた。


「公園がぁ〜行っでみでぇけんど、この辺からじゃぁ遠すぎんべなぁ〜」


 一人のおじいさんが言い出した。…確かにこの辺は交通もダメダメだ。公園をつくったところで、まず行けるかが怪しいと…


「…分かりました、その件も俺たちでなんとかしましょう!」


 せめて南地域に魔法バスが通っていれば…この分ならば、南地域の署名さえ有れば大丈夫だ。

 急いで三人に連絡した。三人も快くOKしてくれたため、バスに関しての署名も同時に行うことにした。


 ━ 一時間後


「俺はこんなもんだが、みんなどうだ?」

「ジゼルもいーっぱい集まった!」

「アタシもいい感じね!」

「まあ、まずまずと言ったところですな…」


 「…よし、これだけありゃ、両方十分だ!」

 公園設立希望に関して、集まった署名は国民の約七割以上、バスに関しては南地域のほとんどの人が署名してくれた。

「…では、これを明日に国の方へ…!」

「ああ、みんなお疲れ!今日は解散だ!」


 その夜、俺は父さんの部屋へ行き、今日の報告をした。

「…へー、公園作りに交通を便利に…かぁー」

 体の調子が悪いのにも関わらず、父さんはいきなり笑い出した。

「ガチでボランティアやってんな!…いいと思うぜ!…なんかお前、幼いのに全然遊んでないような気がすんだよ…俺もちゃんと、とーちゃんしたいし、公園できたら、一緒に行こうぜ…」

 まだ体が弱っているのか、さっき笑ったので体力を使いきってしまったため、父さんは眠ってしまった。


 俺も部屋に戻り、集めた名前たちを、一つ一つ見てから眠りについた。



 ━ 翌日


「お願いします、国民たちの署名です。」

 俺ら四人は、国のトップ…国王や政治家の前で、頭を下げていた。

 手にはしっかりと、国民たちの名前を握って。


 「…いいでしょう!」

 国王は署名を受け取り、魔法フィルター(俺らの世界のカメラ)がシャッターを切る。

「とてもよい心がけですね!そして、国民が強く望んでいることも伝わった…わかりました、国の方からも募金を集める手伝いをしましょう!」

 国王はとても優しい笑みを浮かべていた。


 「「「「…ありがとうございます‼︎‼︎」」」」


 王の間を出ると、新聞記者や魔法通信士(いわゆるテレビの取材)がどっと押しかけてきた。


「リーダーは少年と聞きましたが本当ですか⁉︎」

「組織はもともと悪質なものと聞きましたがなぜこのようなことを⁉︎」

「あなたたちの組織は一体⁉︎」


 …生前はまた違った質問で押しかけられたことがあったな…だが、今は少し、いい気分だ。


「リーダーは俺で間違いありません。そして、組織はもともと悪質なものであったのも事実ですが…それは父さんの世代まで。俺たちは一度、組織を壊し、再出発した者です。俺らは…そうですね…」


「『名のない団体』…そう名乗っておきますね。」


 俺らは取材者たちを後にした。


 

 ━ さらに翌日


 「「『名のない団体』、カリスマ少年現る‼︎」」


 …大きく記事に取り上げられてしまった。少しかっこつけすぎてしまっただろうか…

「あらぁ!リーダーかっこいぃ‼︎いいじゃなぁい‼︎」

 フランがメロメロになっているが…やはりかっこつけすぎたか…。

「おやリーダー、昨日のこと、少し後悔してますね?いつもでしたらワタシ、大爆笑しているところですが…」

 おいバルトロ、思いっきり言ってるぞ。腹黒堕天使め。

「ですが、今日から本格的な募金開始ですからね…注目されることで、効率が上がるのでは?」

「…その発想はなかった。」

 バルトロもちゃんと考えているようで良かった。

「ねー、お出かけまだー?ジゼルひまだみゃー」

 ジゼルが尻尾振って飛び跳ねてる。…よほど楽しみなんだな。

「わかったわかった!そろそろ国の人たちとの待ち合わせ時間だし…」


   「「「そんじゃ、行くか‼︎」」」


 そこから約一ヶ月は募金集めの期間。

 国の人たちとも協力して、国内、さらに国外からも募金を集めた。

 …公園だけに国外からの募金もいるのか?とも思ったが、国王曰く、「やるならなんでも壮大に」だそうだ。国のど真ん中に公園…いや、もはや遊園地を作るつもりだそうだ。もちろん、運営は国がやるそうだ。

 遊園地か…俺の家は貧乏だったから、元の世界にいたときはいけなかったな…。

 父さんが言ってた…一緒に行こうぜってやつ、何気に楽しみにしてる。この年だけどな…あ、今は十歳か。

 たまには純粋に…少年に戻るってのもアリだな…。

 そんなちょっとした期待を込めつつ、募金活動に取り組んだ。


 もう一つ、バスに関しても募金が順調に集まっている。

 これまた国王が、俺らの世界でいう高速道路から新幹線まで作ろうと言ってんだ。

 ものすごい金が掛かるはずだが、魔法と募金のおかげでスムーズに進んでいる。

 

 遊園地も新幹線も、俺らの世界よりも遥かに早いスピードで募金が集まり、遥かに早いスピードで作られていった。


 そして、父さんの体も、次第に良くなっていった。


 募金の期間は約一ヶ月、制作期間は約二ヶ月…ついに、俺たちの理想が現実となった。

 

 南地域の交通も便利になり、国中の人々が自由に行き来することができるようになった。大きな進歩だ。

 

 そして…現実になったのは、これだけじゃない。


 

 「リーダー!招待状が届きましたぞ‼︎」

 バルトロが持ってきた招待状は、遊園地のものであった。


『招待状 名のない団体の皆様

 国営の遊園地が完成いたしました!ぜひ皆様でいらして下さい!』


 「おーうタクヤ!ついに完成したのかー⁉︎」

 後ろからずしっと肩を叩かれた。

 「みたいだぜ、父さん…重い重い…」


「じゃーさー!みんなで行くみゃよ!ボスも一緒に!」

「それはいいわね!楽しそうだわ!」

「では、ワタシはポップコーンの準備を…」


 みんなそれぞれ、準備を始めた。

「…はは、バルトロのやつも、丸くなったなぁ!…よっしゃ、行こうぜタクヤ!」


 みんなが笑顔で部屋から出て行く…

 

 今までだったら、笑顔なんて見たらすぐさま殺してただろうな…俺は、苦しめるのが大好き『だった』から。


 ただ、今は…


      断然、笑顔のが大好きだ!



 父さんが差し伸べた手を握り、俺も笑顔になる。


 少しの希望は大きな希望に変わる。


 絶望しかなかった俺には今、希望しかない。


 みんなが笑顔の中で、俺も笑顔で外へ出た。



    「ああ、行こうぜ!みんな!」

 

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反省したんで転生先でやり直させてください。〜悪の秘密結社、ボランティア団体化計画 愛好栗一夢 @ice_vanillaaji

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