森のボタン

あるとぷ

森のボタン

 むかしむかし、あるところに不思議の森と呼ばれる大きな森がありました。その森ではたくさんの動物が暮らしていました。


とある秋の頃、遠くの森からきつねくんが引っ越してきました。

きつねくんは頭と耳をぺこりと下げて言いました。

「これからよろしくお願いします」

「「こちらこそよろしく!」」

森のみんなはきつねくんを迎え入れました。


 次の日、きつねくんの家にたぬきくんがやってきました。

「僕がこの森を案内してあげる。一緒に行こうよ!」

「うん!」


くまのおじさんのお肉屋さんにうさぎのお姉さんの八百屋さん。ガチョウのおばさんの保育園に猫のお爺さんがいる公民館。たぬきくんはきつねくんにたくさんの場所を紹介してくれました。


 たぬきくんが言いました。

「僕、喉渇いちゃった。少し休憩しない?」

「いいよ。僕も少し疲れたから」

たぬきくんはとてとてと近くにあった木に近づくと、何かを探し始めました。

きつねくんは尋ねました。

「何を探しているの?」

「ちょっと待って。えーっと……あった、あった。これを探してたの」

たぬきくんが指差した先には小さな丸い出っ張りがありました。

「これなあに?」

「ボタンだよ。ここのボタンを押すとりんごジュースが飲めるんだ」

たぬきくんがボタンを押すと、ピロン♪という音がしました。たぬきくんは持ってきていたコップを取り出して、出てきたりんごジュースを注ぎました。

りんごジュースを美味しそうに飲んだ後、たぬきくんは言いました。

「こういうボタンは色々なところにあるから探してみるといいよ。僕も全てのボタンの場所は知らないんだ。初めて見るボタンを押すときはしなきゃいけないことがあるんだけど……」

たぬきくんはボタンの真下のあたりの落ち葉をかき分けました。しばらくすると大きな板のようなものが出てきました。

「やっと出てきた。これを僕たち森のみんなは説明書って呼んでる。ボタンについての情報が書いてあるんだ。秋の間は落ち葉をどかさなきゃいけないから少し面倒だけど、これを読んでからそのボタンを押すか決めてね。初めて押すのはどんなことが起こるかわからないから」

「うん、わかった。教えてくれてありがとう!」


 次の日から、きつねくんはボタンを見つけるために森の中を探検し始めました。

公園の奥にあるとても大きな木を調べてみると、ボタンがありました。きつねくんは大喜びしました。きつねくんは説明書を探すのも忘れて、そのボタンを押しました。ぽこぽこぽこっ!キラキラと輝くシャボン玉が出てきました。

お肉屋さんの裏にある木のボタンを押すと綺麗でまんまるな石が、神社にある木のボタンを押すと新しい絵本が出てきました。

そうしてきつねくんはたくさんのボタンを見つけました。


 ある日、きつねくんとたぬきくんは公園で一緒に遊んでいました。

きつねくんはたぬきくんに言いました。

「この公園の奥にある大きな木にボタンがあるの知ってる?シャボン玉が出てくるんだ」

たぬきくんは驚きました。

「そうなんだ!初めて知った」

きつねくんは自慢げに言いました。

「僕、いっぱいボタンを見つけたんだ!お菓子が出てくるボタンのところに案内してあげるよ!」

きつねくんとたぬきくんはお菓子をお腹いっぱい食べて、幸せな気持ちでいっぱいになりました。


 次の日、きつねくんとたぬきくんは新たなボタンを見つけようと探検に出かけました。

きつねくんとたぬきくんは少し遠くの湖まで歩きました。

たぬきくんは言いました。

「もうこんなところまで来ちゃったね。もうそろそろ帰ろっか」

きつねくんは嬉しそうに木を指差しながら言いました。

「ちょっと待って。あそこの木、ボタンがあるよ!」

たぬきくんはわくわくしながら言いました。

「どういうボタンなのかな?おもちゃが出てくるボタンだったらいいなぁ。きつねくんはどんなボタンがいい?」

きつねくんは少し考えてから言いました。

「僕はやっぱり油揚げが出てくるボタンだったら嬉しいな。大好物だから。じゃあ、ボタン押すね」

たぬきくんは慌てて言いました

「説明書を探さないと。この辺りにあるだろうから、落ち葉どかそうよ」

きつねくんはめんどくさそうな顔をして言いました。

「そんなのいいじゃん。ボタン押したらわかるよ」

きつねくんはボタンを押しました。

するとブーブーと音がして、きつねくんの頭の上から泥水が降り掛かってきました。

「うわあ!」

きつねくんは泥水でぐっしょりと濡れてしまいました。すっかり体が冷えてしまったきつねくんは、次の日風邪をひきました。これに懲りたきつねくんは、説明書を読まずにボタンを押すことがなくなったそうです。おしまい。







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