第508話 文化の違いからくるちょっとした誤りと、それに連動した過ち
やや不毛かもしれないが、前回は薬で眠っていたため後回しにした少年側の尋問をすることにする。
ただその前準備として尋問の切り口を増やすため、彼らの情報を精査したいと考え先に持ち物検査をすることにした。聞きたい側がいちいち質問にモタついたらどっちらけだからね。
拷問も辞さない尋問官、という顔をしてできるだけ恐さを演出し、少しでも素直に吐いて貰わないといけない。
――――でないと、未成年にリリ様から渡されたいくつかの薬を使うことになる。
軽度のものならまだいいが、最後に渡された薬は『これを使うなら最後で。確実に無抵抗になりますが、半刻ほどで死にます』と言われている。高いお薬らしいけど、発作的にトイレに流したくなってしょうがない。
少年は山内と違って独房入れはしていない。代わりに術後はすぐベッドへ縛り付けられており、絶賛おしめ生活中だ。初撃の精神的なダメージは計り知れないと思われる。ちょっとだけ同情してしまうが、二度三度と交換されるうちに
人間って生き物はなんでも最後は慣れるものだ。いけない、目から汗が。介護してもらってこんな事を思うのは失礼千万だけど、寝たきり生活はあまりにも黒歴史すぎる。
ちなみに山内
これは別に辱める意図ではなく衛生面での必要上だ。また腹の傷に触らぬよう脱がすのが困難であったため、上のインナーだけは切って脱がす形を取ったので、シャツはそのまま焼いて処分したそうな。
彼の着ていたブレザーの上下も、腹の血が大量に付着していたこともあって中身をぜんぶ出した後は洗濯されている。
「こちらがあやつらの持ち物すべてになります」
食堂の机の上へふたつの木製の盆が置かれる。差し出されたのは学生服や靴下、靴、ハンカチ、ネクタイ、といった彼らの身に着けていた物。
この盆って、もしかして下界の兵士の使っていた盾を加工して作ったのか。墨壺の付喪神の彼の作品かな? 大工道具の面目躍如だな。
盆の事を褒めると墨壺の付喪神、
「――――申し訳ありません、かの者たちの扱い、やはり白石様のお言葉を聞いてからにすべきだったでしょうか?」
着替えさせたのは問題があったでしょうかと、うるしはややビクつきながら聞いてくる。
幽世の
せっかく白ノ国から持ち込んだ布などの資材まで使ったので、余計な事だったかと心配していたらしい。
他にも身ぐるみ剥ぐときに金品をネコババしているかもと、窃盗を疑われるのが嫌だったのだろう。うるしはこちらが何か言うのを待たず、己の名に誓って何も取っていないと宣言した。
「あまり先手を取るとむしろ疑わしいぞ」
この言動に却って猜疑心を刺激されたのか、鎧のままの胴丸さんが声を出す。
発声の響き的に胸元あたりから声がしている気がする。声帯の無い鎧状態でどうやってこの可愛い声を出しているのだろう?
牢番を務めていた事もある胴丸さんのこの言葉に、城での厳しい牢獄時代が思い出されたのか露骨に怯え出したうるしが可哀そうになって、まあまあと話を流す。
一応、幽世に戻る前に簡単な身体検査をしてスマホっぽいものと印鑑はすでに奪っている。仮に隠し持っていたとしてもせいぜい小銭くらいだろう。なんであれチョロまかされるのは困るが、まあ致命的な話ではない。
下界の金銭に関しては造幣技術の確認という意味で興味はあるが、こちらも以前にろくろちゃんと兵士の持ち物から検証している。差異の確認以外の意味では価値は薄いし、町に行けば彼らの通貨を見つけることも容易いはずだ。
また現世の金銭を彼らは持っていないようだったが、これはたぶん無くても困らない世代なんじゃないかと思う。
小銭を握りしめて子供が駄菓子を買いに走る、そんな時代は遠くになりにけり。
勝手な想像だけど電子のやり取りが当たり前になりすぎると、仮に今の人類社会が崩壊したとして、遠い未来に改めて繁栄した文明人が
いけない。つい思考が飛び回ってしまう。
盆に乗せられた品を手に取り確認していく。学生服はいわゆるブレザー系。どこの学校かは学生証で判明している。これで学生服と学生証が違っているとかだったらビックリなんだが、生憎と制服マニアではないので違ってても分からないです。
実はコスプレでどっちも成人とか無いよね? 二人の顔立ち的に年齢詐称はしていないと思うけど。
靴は普通のスニーカーとローファー。スニーカーの内底が少し擦り切れていて、靴のサイズが見えなくなってるのがリアル。でも特に見るべきものは無いか? 靴のメーカーは聞いたことないブランド。スニーカーのブランドは詳しくないから価値はさっぱりだ。
こういうのって高いのは信じがたい値段するからなぁ。まあ見た目的には明らかに野暮ったいデザインだし、さほど高そうには見えない。たぶん
こういうのはよほど突飛なデザイナー製の物以外は、万人が第一印象で『良いな』と思う品物のほうが高いものだ。安物はどうしても造詣が甘くなるからね。
うーん。靴も制服も、あまり話題を広げられるものは無いかな。異世界お約束の素材で出来ていた、とかを少しだけ期待したのは内緒だ。少なくとも彼らの持ち物から察するに、二人の生活圏ではそういったご都合ファンタジーとは縁遠かったように思える。
――――唯一、目についたのは山内の制服にあった繕いの跡。ああ見えて繕い物が得意で、
しかしだ。彼らの制服や靴の劣化具合を考えると、靴下の新品具合が矛盾する。山内が履いていたのはしっかりとした伸縮性のある現代の靴下なのだ。下界で見る自然素材の布とは明らかに異なる化学繊維混合品で、洗濯表示のタグまである。
普通は肌着のほうが劣化は早いはず。大事に着る程度で維持できる物ではない。こっちに来た時たまたま新品のスペアを持っていて、そのなけなしの新品を最近下したばかりとか? ちょっと考えにくい。
これはまさかスマホっぽいものの機能か? 05のスマホっぽいものにはそういった機能は無かったが、02の持つスマホっぽいものには『カタログ』のような機能があるのか? 服は無理だが肌着だけは調達できるとか?
突飛な話だが無くはないかもしれない。
最後に白いハンカチを手に取る。
「あっ」
材質的に繊細でサラサラな感触。感触的に絹ではないな、化学繊維込みの細い木綿だろうか? おそらく山内のものだろう。
ところで、うるしがハンカチを持った時どこか狼狽したような声を出したのはどうしたのだろうと思って――――すぐに判明した。
薄いうえに丁寧に畳んであったから気付くのが遅れた。広げたそれは、無情なほどに3角形をしている。
言い訳をさせてほしい。こういうのはだいたいフロントのリボンが上にくる形で畳まれているものというイメージがありまして、でもこれは畳んだ者が西洋の下着に不慣れなのか、リボンは見えないし全然違う形に折り畳まれていて気付かなかったのだ。
いやほんと、エロコメディの如く『そうはならんやろ』的な事をしてしまったけど本当に分からなかったの。信じて。
「なあ兄やん、それって南蛮の
ありとあらゆるものに賭けてそういった意図は無い。たったこれだけの事を女子たちに伝えるのに、尋問前から死ぬほど熱弁を振るわなければならなかった。
特にろくろちゃん。普段から下半身の防御が疎かなのに、今さら露骨に隠さないで頂きたい。うちも気をつけよ、じゃない。
それと喜平! 男の君が優しい目をすると果てしなく疑いが増すからやめて!
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