第228話 画面の向こうの敵意
ドス黒く変色したお手玉を
交換してほしかったら心から敬いなさいとか、そんな交換条件で称えられてアンタは満足なのかと言いたい。食客として白ノ国でタダ飯パクパク食ってるんだから、ちょっとしおらしくしてはいかがかな?
なんのかんのギャイギャイ言いながらも新しいお手玉を投げて寄こしてくれたのは感謝。ただ脊髄反射で顔面を狙うのは止めて頂きたい。
これを何回繰り返せばいいのかは
黒くなったほうのお手玉を封じるのに集中するからさっさと行けと、手でシッシッとされたので何故か入室してから終始菩薩顔をしている鬼、
廊下で待っていた黒頭巾の猫ちゃん(茶の多い三毛)に連れられて、以前も使った待機室的な部屋でお目通りの時刻を待つ。
時計のない誰もいない部屋は『無音』という『音』が聞こえてくるほど静かで、少し怖い。
外界からの刺激の無い世界で考えるのは今後の事。
屏風覗きは確実に命を狙われている。神出鬼没の相手は未だに捕まっておらず、おそらく正攻法では捕縛は無理と思われる。
南の縄張り紛争は飲み屋連盟を隠れ蓑にした文鎮堂でほぼ決まり。ただ、この義理を欠くやり方に屏風覗きは不満がある。
仲間内の寄り合い所帯のような集まりだったはずが、気がつけば金銭優先の大手の経営に組み込まれていた小店舗たち。利益を優先するならそれもいい。
しかし正直こんな騙し討ちのようなやり方はどうなんだ? 個人的な発言だが、はっきり言って不愉快だ。
そして懸念もある。文鎮堂の
当人たちは枠の中でお行儀よくしているつもりかもしれない。しかし、
屏風覗きの考えすぎだろうか? もしくは十手氏にやり込められた事で内心腹を立て、色眼鏡で見てしまっている?
この静寂の機会に、一度精神をリセットしたほうがいいかもしれない。
考えてみたら完全にひとりになるのは久しぶりだ。怪我をしてから今日まで誰かしら付いていてくれたからなぁ。ひとりになるのはせいぜいトイレの時くらいだった。
いい機会だしスマホっぽいものを覗いてみよう。この奥の手は誰かの前では気楽に覗けないのだ。
<実績解除 村にょ術者 2000ポイント>
<実績解除 町にょ術者 2000ポイント>
<実績解除 国にょ術者 2000ポイント>
<実績解除 砦の主しゃま 5000ポイント>
<実績解除 投下ランものは音に聞け、地下からば寄って目に模様 5000ポイント>
<実績解除 轟きゅ名声 5000ポイント>
<実績解除 妖怪にょりコワイ 5000ポイント>
<実績解除 累積ポイント達成 5000ポイント>
<実績解除 いっぺんぺんに解除 5000ポイント>
<実績解除 最大獲得ポイント達成 5000ポイント>
<実績解除 誰かとのみゅう酒はうまに 1000ポイント>
<実績解除 怪物の試し鯉 3000ポイント>
変な声が出そうになった。
すごい量で実績が解除されてる。累計ポイントで4万5千?
最後にスマホっぽいものを確認したのは黒曜戦、祭りの朝になる。そのときのポイントは900に満たなかった。
このスマホっぽいものに詳細ログなんて気の利いた機能は無い。実績解除のタイミングは推測になるが、いくつかの実績は間隔が開いている気がする。そしてその推測を裏付けるようなログもある。
≪アナウンス 妨害が撤去されましゅた。保留実績を解除しまった≫
なんだこれは? 妨害?
この
考えられるとすれば黒曜一派か? 実績解除によるポイントの取得を一時的に差し止めていた?
いや、情報が足りない。決めつけるのは止めよう。まったく関係ない理由、例えば電波が届かないとか、アップデート中で機能しなかった事を『妨害』と翻訳している可能性もある。
それに見た所、実績のひとつ『いっぺんぺんに解除』というが妨害のおかげで達成できたっぽいしな。これは複数をいっぺんに達成すると達成される実績なのだろう。
例によって日本語表示が誤字というかバグってるというか、だいたいのフィーリングで読み解けって感じで酷いものである。ある程度の法則性はあるようだけど。『にょ』は『の』で確定かな? いや、正しく表示されてるのもあるな、やっぱり判らん。
今日までキューブの使用でチマチマ消費していたので微妙に減ったポイントを足して、合計はポイントは45722。過去最高だ。
これを一旦45000と722に戻し、45000の7割である31500と3割の13500に分ける。取得した7割は国の物だからね。このポイント献上が出来なければ屏風覗きに価値は無い。
取り分の13500に722を戻して残14222ポイント。この数字が財産であり移動能力であり、当面の戦闘力だ。単純に自動防御を連続使用すれば7日ほど無敵モードになれる計算である。攻撃を受けると効果時間が減るので絶対7日とはいかないが。
潤沢なポイントのおかげで当面の不運や暗殺者の対策として選択肢が増えたな。
さて、次は最後の方にあるログについて考えてみよう。
<10000ポイントで世界が開かれます YES/nウッ>
<時間を超過すましゅた。世界を開く権利が一時停止しゅます。ザん年です>
これって、下界の砦っぽいところで表示されたログに似てるな。世界を開くって何だ? 必要ポイントも1万とか結構なお値段である。
一時停止、というのも気持ち悪い。未練たらしいというか、チャンスと見せかけて再度の課金を引っ張るようなトラップめいた気配を感じる。まるでクリックするまで何度でも表示される迷惑広告のようだ。
―――今までこれが命綱なので使ってきたが、本当に
御前とポイントのやり取りがある以上、似たような物をあの方もお持ちということになる。つまり屏風覗きと御前様のお持ち物として、最低でも共通の機能を持つ代物が幽世にふたつはあることになる。
それは本当にふたつだけか?
数はそこまで多くないだろうが、もっとあると考えた方が自然だろう。
では、誰が持っている? その機能はすべて共通なのか?
屏風覗きの持つスマホっぽいものは『カタログ購入による異世界? への移動』『キューブ』『自動防御』が主な機能だ。他にポイントを『実績解除で取得』『下界踏破で取得』も機能と言えるだろう。
御前もキューブを使えるのだろうか? かの方の英雄譚にはそれっぽい話は出てこない。ろくろちゃんやとばり殿、そして町の
ダメだ、推測しか出来ない。
下界やポイントの謎。その解明のヒントになりそうなので、双方の持っているアイテムを付き合わせて確かめたいが、身分的にも信用的にも気軽に『見せて』は言い難い。頼むにしてもお互いにもっと『信用』を培ってからだろう。
―――それが
袋小路にはまり込んでいく思考を中断する。今はまだ、このままでいい。
そう言い訳して。
「屏風殿。お目通りに参りましょう」
新しいカタログでもないかと引き続き画面を覗こうとしたとき、襖の向こうから頭巾猫の声がした。立ち上がり衣服の乱れがないか最後の確認をする。
白玉御前にお言葉を届けるにはまだ早い。まずは屏風覗きの上司である立花様の信用を積み上げるのが先だろう。
<実績解除 セカイノカケラ? 1000ポイント>
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