第12話 チーター発見方法1.偉い人相手に横柄な態度が取れる庶民

「我は立花。階位壱拾壱位壱権女、立花である」 


 やや混乱気味のこちらのお礼と挨拶を終えると『女侍?』様が名乗ってくれる。拙者ではなく我か。階位(怪異かも?)は身分、権女(権所? 音では分からない)は役職か何かだろうか。白玉御前は参位参権女。前者は少ないほうが、後者は数字が大きいほうが偉いのか?

 まずどんな切り口で話を振るべきか悩ましく考えていると立花様のほうから大まかに聞きたいことを話してくれた。


 Q.あの狐なんなの?

 A.元偉い人、聞くな。色々あって離れで仕事させてる。昔からやらせてるけど暴れたのは今回初めて。


 Q.きつねやの従業員ということでよろしいか?

 A.厳密には違うけどケツ持ちはこちらの者ってことで。


 Q.どこまで助けてくれますか?

 A.足が良くなるまで衣食住はこちらで持ったる。あとこれスマホな、もう奪われるんやないで。


 Q.他の荷物ありませんでしたか?

 A.服は雑巾みたいになっとったで、アキラメロン。他も見当たらんで代わりを用意したるわ。


 Q.てゆーかココどこ? 日本?

 A.幽世。人の世と近くて遠い場所にある、人のいない世。そもオメーどっから来たん? なんか御前が止めるから聞かんけど。



 だいたいの要約。基本は立花様が答えて、要所要所で白玉御前様から立花様に何か言い含めていた。御前に言い含められるたびこちらを見て、『えぇ…』という不満気な顔をされた気がする。どうも目の前の『女侍?』としてはもっと軽い援助で良いと考えていたようだ。


 白玉御前様がこちらをどう思っているかは分からない、慈悲というより高貴な人として見栄を張ったのかもしれない。最後の質問には逆に強く聞き返されたが鈴の音がひとつ鳴るとピタリと追及は止まった。


 一通り聞きたいことを聞けてわずかに部屋の空気が間の空いた感じになる。階位のことなど聞いてみたくはあるが、初対面の偉い人にいちいち質問するのは憚られるぐらいの常識はある。向こうからもお開きの気配が漂ってきたあたりで立花様から張りのある声掛けがこちらの後ろになされた。


「とばり」


「はっ」


 ここまで完全に気配を消していた『山伏っ子?』が廊下で身を縮こまらせて畏まるのが声だけで分かる。だいぶおっかない上司なのだろう。あるいは身分制がとにかく厳しい世界なのかもしれない。


「御前様より、褒めてとらす。とのことだ。ようやった」


「ありがたき幸せっ、すべて御前様の御威光の賜物にございますっ」


 何か褒美でも上げるのかと思ったがそのまま話は終わった。客の前では渡さないだけかもしれないが、もし本当に何も無しなら個人的にお礼の品でもこっそり渡したいところだ。無傷で終わったとは言え明らかに危険な事をしてもらったのだから。


 と言っても今手元にあるものといえば、お代官から小判貰うときに使いそうな膳?に乗せられて返却されたスマホっぽいものだけ。これを頭巾を被った猫がしずしずと直立で運んできたときは口から変な声が出てしまった。カワイイ。


 ともかく、狐には渡せたがこの子にもポイントは譲渡できるのだろうか。そもそもこのポイントってなんなのだろう。


「夜も更けた、本日はこれまで」


 残念ながら新たな質問をする前に打ち切られてしまった。立花様の言う通り夜もいい時間、腹も減ったし何より足が。結局崩さなかったしな。

 退室前に立花様よりソレ、たぶん『山伏っこ?』の事だろう、を付けるので用があったら『山伏っこ?=とばり』に言うようにと言われた。この子も災難だ。


 再び担がれて行く廊下。ひとまず『山伏っ子?』にどのような呼び方をすればいいかを聞いてみる。こちらは背中しか見えないのでどんな気持ちかは見て取れないが、不快には思っていないようで名前で呼んでかまわないとのこと。


 たださすがに馴れ馴れしいのは不愉快かと思い、いくつかの敬称を挙げてみた。くん、さん、ちゃん、殿。ちゃんでこちらを担いでいる腕に圧を感じた。殿一択だった。


 通された部屋は身がすくむほど豪華、いや豪奢な一室、もう部屋前の襖から違う。五穀豊穣の稲穂を金箔を使って表現したかのようなキンキラの襖。室内は室内で派手な掛け軸やら壷やら価値なとさっぱりわからない調度品が置かれている。


 OK、とりあえず絶対に近づかない。そちらに向かってくしゃみや咳をしないと固く誓う。しかし、厄介になる身で言っては悪いが趣味が悪い。詫び寂び文化に真正面から反抗しているマネーパワー信奉者の心の牙城のようだ。


「お客人、こちらにお召替えを」


 部屋に圧倒されているこちらを他所に、とばり殿がこれまた豪奢な大葛籠を運んできた。この子が小さいので余計に大きく見える。渡されるかと思ったらとばり殿の手でさっさと開けられ中から着物が取り出された。客に出すものではなく客の前で従業員が使う見てくれの良い道具なのだろう。


 どうもこの子は仏頂面がデフォルトのようだ。なのだが感情自体は分かりやすく気配というか空気が漏れている気がする。今はどこか納得いかないという感じ。宿泊施設の従業員だとしたら問題があるかもしれないが、白玉御前の湯治にくっ付いてきただけの徒弟かもしれないので黙っておく。


 ところで荷造りバイトのおっさんように無心で葛籠を開いたとばり殿が一瞬硬直したように見えたが何だったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る