愛しのトッカちゃん編
女二人、軽快にステップを踏みつつ威勢よく壇上に登場。
ショッキングピンクのシャネル風スーツを着たおまるは、前にもまして貫禄たっぷり。こまるは白地に銀ラメのパンツスーツ姿で、中性的な妖しい雰囲気がする。
おまる「皆さ~ん、こんにちは。おまるで~す」
こまる「こまるで~す、本日はホンマにようこそおいでやす」
両者、お辞儀をしつつ客の顔をぐるりと見渡す。
おまる「うち、ごっつう嬉しいねん。今日という今日は待ちわびてたんやで」
こまる「何や、あんた、そんなにわてに会いたかったんか?可愛いとこあるやないか」
おまる「アホ言うたらあかん、うちが会いたかったんは今目の前にいてるお客様にや、あんたのキモい恰好もう見とうないわ」
こまる「そりゃ、こっちのセリフや。そのド派手な洋服に品のない厚化粧・・今晩も悪夢にうなされそうや」
おまる「あいかわらず、けったくそ悪い女やな。そっちこそホストのあんちゃんみたいな恰好してるやないか、人のこと言えへんで」
こまる、ニヤリと笑い
こまる「ホストのあんちゃん?ええとこ突いてるやん・・なあ、(流し目で)なかなか似合うやろ?宝塚の男役みたいやろ?」
おまる「ゾゾ~おぞまし~堪忍してや、病気せっかく治ったのに又ぶり返すわ」
こまる「病気?」
おまる「あ、口がすべってもうた。実はなあ、うち、この前まで入院してたんや」
こまる「(仰天した顔つきで)入院?あんたが?ケンカでもしたんか」
おまる「ちゃうわ、病気言うてるやろ」
こまる「食当たりか?」
おまる「ちゃう」
こまる「イボ痔が悪化したんか?」
おまる「ちゃう」
こまる「わからんなあ・・そうや腸捻転やろ!あんた便秘でガスためこんで、しまいに腸がねじれてもうたんちゃうか?」
おまる「・・(あきれ顔で)あんたの下品な発想にはホトホトあきれるわ、うちのかかる病気は下ネタオンリーか?」
こまる「下品で悪かったな。正直言うて思いつかへんのや、あんた病気したん今まで聞いたことないねん」
おまる「うち風邪ひとつひかへんかったからな」
こまる「(小声で)そりゃ納得や、なんとかはひかへん言うからな」
おまる「なんか言うたか?」
こまる「いや別に、ホンマのとこ何の病気やったん?」
おまる「・・心の病や」
こまる「心?心臓か」
おまる「ちゃうちゃう、(胸に手をあて)心、ハートや。うちはナイーブで傷つきやすい女やねん、今回それがようわかったわ」
こまる「ショックなことでもあったんか?」
おまる「(深いため息をつき)いろいろなあ・・人生は試練の連続やで、女一人で生きてんのやからしゃあないけどな」
こまる「亭主いても試練だらけやって、わてかて苦労ばっかしや。で、金欠やったんか?それとも失恋でもしたんか?」
おまる「そんなんいつものことや、何でいまさら悩まあなあかん」
こまる「それもそうや、なら何が原因や。よう肥えてるし悩みあるように見えへん」
おまる「トッカちゃんが・・トッカちゃんが死んでもうてなあ」
こまる「トッカちゃん?それ誰や、友達か?」
おまる「うちの一番だいじな友達やねん、(泣き声で)ずっと一緒に住んでたんやで」
こまる「女性か?」
おまる「・・わからへん」
こまる「ハ?わからんてどういうこっちゃ」
おまる「男か女かわからんかったんや、そないな事どっちでもええねん。お互いを必要としてたんやから、それで十分やないか」
こまる、両目を見開いて、おまるの言葉に真剣にうなずく。
こまる「トッカちゃん、男のナリした女かその逆やったんやな。いやあ、わて、あんたの気持ちようわかるで。人が人を好きになるのに性別や関係あらへん」
おまる「トッカちゃん、人やないで」
こまる「へ、人やない?じゃあ何や?」
おまる「トカゲや、だからトッカちゃん言うてるやないか」
こまる「わかるか、そないなこと。ちゅうことはそのトカゲのトッカちゃんと住んでて、トッカちゃんが死んでしもたショックで入院したいうんか」
おまる「そうや」
こまる「信じられへん・・辛いんわかるけど、何でそこまでおかしいならなあかん。また、よう似たん飼えばええやないか」
おまる、声を荒げて
おまる「あほんだらっ、トッカちゃんはこの世に一匹しかおらへんのや。あんた亭主死んだらよう似てんのとすぐ再婚すんのかい?」
こまる「(きっぱりと)絶対せえへん、なんであんなゴクつぶしと何度もせなあかん。次はもっとマシなん選ぶわ」
おまる「つめたい女やなあ」
こまる「ダンスにのめりこんで仕事せえへんからきつう怒ったら、また家出してしもうた。もう、つくづくウンザリや」
おまる「あんたかてダンス好きやろ、夫婦で仲良うダンスしてたんちゃうんか」
こまる「小柳ルミ子んとこも別れたやろ」
おまる「・・たしかに。でもあそこは年の差もあったし、住む世界が違うやんか」
こまる「なんや、わてが庶民いいたいんか?」
おまる「またヒガんだ言い方する、ええか、あっちはプロでこっちはアマチュアや。アマは楽しけりゃええけどプロはそういう訳にいかん、周りに認められなあかんのや」
こまる「それで金稼いでんねんから当たり前やんか、わてかて好きなことして暮らせたらサイコーや」
おまる「あんたの亭主、真剣なんかもしれんで。ダンスに人生賭けてんのや」
こまる「そんなん無理やて、なんぼ努力しても才能ないとな。だいいち今からがんばるいうても年いきすきてんねん」
おまる「あんたと一緒におったら、開きはじめた花もしおれるわ。もうこの話やめ~て感じでダンナさん出ていったんやろな」
こまる「そんなん無責任や。妻のわてよりダンスがだいじやて冗談やない。もうあんなん帰ってこんでもかまへんで」
おまる「ほお、えらい強気やな」
こまる「はん、実はな今好きな人がおんねん」
おまる「驚いた・・爆弾発言やな。(ちゃかすように)許されない愛か?」
こまる「そうなんや・・世間様にはなかなか公表できへん」
おまる「W不倫か?」
こまる「相手は独身やねん」
おまる「それやったら問題ないねん、あんたのダンナはダンスに夢中やから別れて好きにさせてやって、あんたもその男と再婚すれば万事めでたしめでたしやんか」
こまる「・・男やないねん」
おまる「話がようわからん、男やない?男やない・・ええっ、相手は女かい」
こまる「はいな、ええ女でなあ。わてホンマに好きになってもうた」
おまる「ひやあ、あんたにそんな趣味あったや知らなんだ。うちも狙われてたんやろか」
こまる「まさか、ありえん妄想やめてんか。あの人とあんたと一緒にされたら、わてのプライドずたずたになるわ」
おまる「そりゃ失礼したな・・わて女に恋した経験ないよって、ようわからへんのや」
こまる「うちかて、こんな気持ち生まれてはじめてやねん。(瞳を輝かせて)ギリシャ神話の女神様みたいに素敵な人なんやで」
おまる「ギリシャ神話!遠い昔、学校の図書館に置いてあったな」
こまる「その中に出てくるビーナスみたいに綺麗で、かわいらしくて・・いっしょにいたら胸がドキドキすんねん」
おまる「ええやないか、わて応援するで。こうるさい日本抜け出して、アメリカかどっか外国行って結婚したらええ」
こまる「理解あんなあ、あんた。まあトカゲに夢中になって入院までする人やから気持ちわかってくれるわな」
おまる「わかるでえ、恋に人種や性別やいう勝手なかきね作ったらあかん。好きなもんは好きでええねん」
こまる「おおきに、うち、てっきり変人扱いされると思うてた。上には上あるいうんがわかって、えろうおおきにな」
おまる「ほめられてんのか、けなされてんのか、ようわからんな。まあええ、こまるの第二の人生にカンパ~イ」
こまる「(照れ臭そうに)ありがとさん」
おまる「はよ相手のビーナス様に会わせてや」
こまる「そうしたいんはヤマヤマなんやけど、愛の告白してから会ってくれへんのや。やっぱし脈ないんやろか」
おまる「なんや、両思いやないんか?」
こまる「相手はかっこええ彼氏がおんねん、うちの気持ち嘘かジョーダンや思うてるみたいやからマジやで言うて迫ったんや」
おまる「そしたら?」
こまる「キャー助けて言うて一目散に逃げてしもた、それっきりや・・」
おまる「あんた酷なコト言うみたいやけど、それあかんわ。相手は全然その気ないわ、早うあきらめや」
こまる「わてに死ねいうんか?あの人のおらん人生や考えられへん」
おまる「相手はあんたに迫られたん悪夢やと思うてるで。わて経験者やから教えるけど、追い掛ければ追い掛けるほど獲物は逃げてしまうもんなんや。しばらく泳がせとき」
こまる「・・犯人を付け狙う刑事か、あんた」
おまる「蛇の道はヘビや、わての言う通りにしいや。あんたを泣かせとうないねん」
こまる「イカスなあ、わてあんた見直したわ。男惚れしそうや」
おまる「あんな、うちもあんたも一応女やねんけどな。それは男が男に使うセリフや」
こまる「もう、男や女なんてどうでもええやんか。トッカちゃんよりわての方が可愛いないか?女も悪うないで、試しにどうや」
突然こまるに言い寄られ、おまる、思わず後退りをする。
こまる「恥ずかしがらんでもええやないか。長い付き合いやし、もしかして、うちらベストパートナーかもしれへんで」
おまる「(後退りしながら)節操なさすぎや、あんた。さっきまでビーナス様言うて大騒ぎしてたくせに」
こまる「しょせん高嶺の花なんや、わてと釣り合う人やないんや。その点あんたとやったら気兼ねのう付き合えるしな」
壇の端に追い詰められ、おまる絶叫。
おまる「トッカちゃ~ん助けて」
こまる「アホッ、なに本気にしてん。冗談に決まってるやろ、わては面食いやで」
おまる「命縮んだわ、また入院せなあかんな」
こまる「あんたにその気はおきんけど、ごっつうええ女やで。自信もってええで」
おまる「・・おおきに」
両者、壇の中央に駆け戻りながら
こまる「ほんじゃ最後にもう一度」
おまる「お客様方、聞いてんか」
二人いっしょに客席にむかって
二人「(大声で)愛に国境はあらへんで」
こまる「隣のじいちゃん、ばあちゃん大事にしたってや」
おまる「近所の犬や猫も可愛がってや」
こまる「ミミズやゴキブリあんまし嫌わんといてな、奴らに罪はないで」
おまる「あんたは罪深いけどな」
こまる「(キッとおまるを睨み)なんやて?」
おまる「ストーカーはあかんで、ひとりよがりの愛の押し売りにすぎん」
こまる「あんたに言われとうないわい、人のこと言えるんか」
おまる「(慌てて)じゃ皆さん、さいなら」
こまる「また会えるん楽しみにしてるで、それまで元気でな」
おまる「ええ愛を育ててなあ」
笑顔で両手を振りつつ、壇から二人退場。
漫才「おまるこまる」 オダ 暁 @odaakatuki
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