ドアホン。


「ねてます」


 ドアホン。

 連打。


「ねてます」


 なんか、聞き覚えのある声。


「そこにいるのはわかっている。たてこもりは無駄だ。あきらめて出てきなさい」


 彼の声だった。

 ようやく。

 彼の夢が見れているのかもしれない。


「待ってて」


 ゆっくりと、起き出して。

 たちくらみしながら、ドアに向かう。

 開けた。

 玄関。

 彼がいる。


「おはようございます。おかげんのほうは」


 彼の顔。

 1年ぶり。

 なみだは、出なかった。せつない気持ちが、あるだけ。これは夢。だから、覚めてしまう。夢が終われば、また、ひとりの部屋。


「お、おっとと」


 彼が、わたしを支えてくれる。

 夢が、終わる。

 めまい。

 せめて、喋りたかった。彼がいなくなってから。わたし、つまらなくなったから。人生が。ねえ。わたしも連れていってよ。


 目覚めた。


 泣いていた。


 ひとり。


「お。起きた?」


 彼の声。ドアの開く音。


「冷蔵庫の中、酒だらけだったんだけど。もしかして呑めるようになった?」


 彼がいる。

 飛び起きて。

 彼に飛びつく。

 彼の匂い。


「いや、コンビニで野菜買ってきただけだけど」


「いる。あなた。ここに。いる?」


「いますけど。1年ぶりのご帰宅ですが」


「なにしてたの」


「死んでた」


 何か言おうと思ったけど。

 やめた。

 つらそうな顔をしてたから。


「仕事でさ。死なないといけなくて。戸籍とか諸々の再設定が大変で。連絡もできなかった。ごめん」


「これ。現実だよね」


「うん。現実だね」


「外」


「雪降ってるね。俺が死んだ日と同じ」


 しばらく、彼にくっついて。雪を見ていた。


「ごめんなさい。わたし」


「何が?」


「白菜。つぶしちゃった」


「あ。ほんとだ」


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雪の向こう側まで 春嵐 @aiot3110

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