「いやー、男子はたいへんだね。ぶっ続けで試合をしてるんでしょ?」


 宇喜多さんが問いかけた相手は、もちろん、ぼくではない。宗林むねばやしという、学年でもトップクラスの社交性をそなえた男子だ。


 女子に話しかけることなんて、かんたんにできるし、女子から、気軽に話しかけられる存在でもある。校則に抵触しない範囲で、イケてる髪型をしている。そうしたところは、すごく器用だと思う。


「お荷物がひとり、苦労をするよ」


 そのお荷物というのは、ぼくのことだろう。宗林は、ちらりとこちらを見た。それにつられて、宇喜多さんもぼくの方を振り向いた。でもそれは、一瞬のことだった。だから、宇喜多さんがどんな表情をしていたのかは、分からなかった。


「昼ごはん一緒にしない?」


 宗林のその言葉も、もちろん、ぼくに向けられたものではない。宇喜多さんへの誘い文句だった。よほど、自分に自信があるのだろう。そうした自尊心には、あこがれる。


 もちろん、宇喜多さんには、その誘いを断ってほしかった――いや、ぜったいに断るはずだと思った。ぼくは、宇喜多さんのことをほとんど知らないけれど、だからこそ、彼女をどこまでも信じることができる。


「ごめん。いつも昼休みは、アトリエでごはんを食べてるんだ。少しでも卒製を進めたくて」


 宇喜多さんは、もう一度「ごめんね」と言って、申し訳なさそうな顔をした。


 宇喜多さんと別れたあと、宗林は、「ガード、かってえな」と、まるでぼくを意識したかのようなひとりごとをした。


 卒業まで、あと少し。この恋をあきらめたいと思うことが、たびたびある。


 かりに、宇喜多さんに想いを伝えたとして、その結果がどうであれ、残りの時間でできることなんて、かぎられているのだから。

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"HAPPY END" 紫鳥コウ @Smilitary

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