第2話 一喜一憂

「1番は…1番後ろの窓際か」


番号札の席を確認し、俺は心のなかでガッツポーズをする。

これでもしクラスや班で浮いても大人しく過ごせる…!隅っこサイコー!!

って、いかんいかん…こんな弱気でどうする。

俺はここからデビューして、陽キャ道を突き進むんだ!!

ス○ッコ暮○し卒業!

陽キャ王に、俺はなる!!!


(陽キャ王ってなんだよ…)


自嘲気味に笑いながら、席を動かすことにした。





俺は出席番号1番、最初に決められた席では廊下側の1番前だった。つまり、右前から左後への1番遠い席移動となるわけだ。

ん?何が言いたいかって?

そりゃ決まってんでしょ。

1番遠い移動だから、新しい席に到着する頃には隣の席と班員が決まっているのだ。

欲を言えば、先に座って待ち構えたかったが。

やっべーー。緊張してきたぜ。

陰キャ道を極めた俺ですら席替えのワクワクや緊張は抑えられないらしい。

手汗やべぇ…大丈夫かな。

いや、行きなり手を繋ぐなんてことはねぇか…。


ある程度、全員が席についてきた。

しかし俺は、移動しながらいやな予感を抱いていたのだ。

クラスカーストトップの男女(俺調べ)の二人がまだ見当たらない。

まさか、それはねえよな。うん。

しかし、懸念は確信へと変わる。

女子クラスカースト1位(俺調べ)の御手洗 星歌(みたらい せいか)。

明らかに俺と同じ方向に向かっている…!

これはもしかして、もしかするのか!?

クラスカースト1位はさすがに攻略難易度高くねぇか!?

しかし、これが物語だとしたら。

クラスカースト最下位の俺とクラスカースト1位の御手洗さんが隣の席になって、お互いの秘密を知り、後々付き合っちゃう的な…!?

あの美少女と付き合えるなんて…!


(なんか、あいつニヤついてない?怖いんだけど…。)


おっといかんいかん。ついつい持病の過激妄想が表情にも出てしまったようだ。

しかし、現実はそううまくいかないだろう。

俺は今まで友達と言う存在が出来たことが無いのだから。


そんなこんなで席に向かうと。

そこには御手洗星歌が座っていた。


(ハイハイ来ました俺の時代来ました!ありがとうございますこのご恩は一生忘れません神様!俺はこの超絶美少女と付き合って人生大逆転させていただきますこの度は本当にありがとうございますッッッ!)



「えっと…君が1番、?」


第一声はそれだった。驚くようなキレイな声。消して大きな声ではないが、透き通り、どこまでも届いてしまいそうな美しい声。

長く伸ばした茶色の髪は、まっすぐと最中の辺りまで伸び、風を心地よさそうにサラサラと受けている。

輪郭小さく、目はパッチリと、自信をうかがわせるような顔立ち。

スラッとしたスタイルと脚は、まさにモデルを思わせる者だった。


このとき、俺は純粋に一目惚れしたんだと思う。


我ながら単純だな、と思った。


「あ、は、はい。そ、そうです。」

「あ、そうなんだね!!よろしくね!!えーっと…」

「あ、新子です。新子空です。」

「空って呼ぶね!私のことは星歌でいいからね!」

「あ、ハイ。わ、ワカリマシタ。」


なんじゃこの美少女はぁぁぁぁああアアアア!

なに!?神なの!?これは惚れるでしょ逆に惚れない人いるの!?いないよね!?ね!?

もう話しかけてもらってテンション上がりすぎて最後の方カタコトになってしまったけども!!


「あ、あのー?空??大丈夫?…おーい!」

「あ、スミマセンツイ…決してあなたが可愛すぎて一目惚れしたとかそう言うわけではなくて…ゴニョゴニョ…」

「あははっ空は面白いなーっ!」


わ、笑った…!さらに可愛い…!美しい…!尊い…!


「おーい、ちょっと空~??」

「あ、ハイ。」

「も~っ。すぐフェードアウトするんだから…」

「ご、ごめん」


ムスッとした顔も可愛いなぁ…もう何をしても美しいわこの人。

しかし、おかしいな。

美しさで忘れてしまっていたが、御手洗星歌はもっとお高く止まっている感じだった。

普段クラスにいる時もあまり周りの人たちと話す様子もなく、まさに女王と言った存在だった。

実際、クラス代表を決定する際には満場一致で選ばれた。

それが、何故か俺には気さくに話しかけてくる。

妙な違和感があるな。実際、俺と御手洗星歌が話していることに気づいている人は驚きを隠せないでいる。

なんだ…?何が目的だ…?


もしかして


俺に気があるとか!?(※バカです)

な~るほどねぇ~?それなら全てが納得だぜッ(※アホです)



「空と隣になれて嬉しいよ!」

(ここはクールに…)

「ぼ、僕も嬉しいよ。ほ、星歌が9番を引いてくれて。」

「ほんとだよー。9番引けて、よかった!ほら、見て?」

と、カッコつけて話す星歌俺に向かって番号が書かれた紙を見せてくる。

…ん?

まてよ…?


「そ、それ、6番じゃない?」

「え?そんなーまさか~!空は冗談が多いなぁ!」

笑いながら、俺の肩をベシベシ叩きつける。

かわいい…が、こんな行動も今までは見たこと無い。

やはり俺を…!?じゃなくて、今は番号の紙のことが優先だ。

「し、しっかり見てみなよ、か、紙。」

「えーっ仕方ないなぁ…どうせ9番で…あれ、?そ、そんな筈は…」

「えっ」

まさか、冗談のつもりだったのに…!

「ごめん…」

「えっ」

「6番だった。てへっ❤️」

「えっ」

「じゃーね!空!6番のとこ行ってくるね❤️」

「えっ」

「バイバーイ❤️」

「えっ!?」


こうして俺の美女との出会いフラグはポッキリと折れた。

どうやら、俺にはラブコメ主人公のような補正が無い上に、隣の席にもなることが出来ないようだ。

自分の左手を恨みつつ、結局隣は誰になるのかと考えながら心のなかで叫んだ。


チッキショーーーーーーーーーーッッ!!!!

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