お洒落な自殺

はんぺん

お洒落な自殺

 「昨日の夜に、男は死んだと思われる」

検察官は検視を終え、死体の男に目を向けた。男は自殺だろう、恐らく。いや、誰が見たとしても自殺だと思うだろう。それはこの状況を見れば明らかであった。男は首を吊り、その周りに果実とか、衣服とかが同心円状におかれているのだ。とても他殺だとは思えないし、他殺だったとしても何故首吊りで、そして何故こんな派手な方法で殺したかも分からない。現場の物々しい空気は継続した。


 しかしながら、民族や宗教の研究をしている私が呼ばれた理由がようやく分かった。この自殺と不気味なサークルがなにかしら関係していると思ったのだろう。

「残念だが、恐らく関係は無いだろう」

私は警察官に答えた。宗教であれば、『今死ねば神の元に行ける』と言う理由で集団自殺を計画したり、民族では『一人前になった証』として危険な行為をしたりするが、自殺である以上民族的関係では無いと思われるし、部屋や私物を見ても宗教に心酔していた様子はない。勿論怪しい宗教にもだ。結局この事件は調べるまでもなく自殺とされ、この謎のサークルは不明のまま終わった。


 家に帰り、ふとあの事件を思い出した。よく考えれば不思議な点が幾つかあった。記者やマスコミは一人たりとも見かけなかったし、警察側もやけに早く調査を終わらせていた。そこには何かの謎があった。その謎に興味を持った私は、その事件について調べてみることにした。


 調べてから数時間後、驚くべきことに何も情報は出てこなかった。今回の事件についての情報は勿論、その自殺方法の意味や、あのサークルの意味すらも書かれていない。まるで無かったことにしているみたいで、私は気味が悪かった。


 このままでは終われないのが私の性なのか、私は家にある本や論文を片っ端から読み漁り、似たような事件含め探した。しかしちっとも見つからない。可笑しい、必ず、あるはずだ。私はもう一度椅子に座り、ネットで情報を探した。


 もう朝日が昇ってくる。私は限界まで探していた。しかし、ページの最後にまで、その話が書かれたサイトは見つからなかった。私はもう寝ようと立ち上がり、寝室に向かった。ぐちゃぐちゃに散らばった本の中にある小さな床の範囲を歩いていると。見知らぬ本が目に入った。表紙も、裏表紙も真っ黒な薄い本で、かなり古そうな年季とシミが付いていた。私はその本を試しに開けてみた。そこには、『悪魔の儀式』と丁寧な明朝体で書かれていた。そして次のページには、『お前の望を叶えるための方法が先に書いてある』と書かれていた。私は読む手を止めず、最後まで見た後は、不確かな興味が湧いてきた。これで呼び出す事が出来たのならば、悪魔の証明と、あの謎を解けるではないか。早速明日から材料を取りに行こう。


 …多種類の果実。良質な素材の衣服。そして輪があるロープを中心に吊るし、その輪に首をかけること…。なんて簡単なんだ。これで真実が分かるなら、容易い物だろう?

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お洒落な自殺 はんぺん @nerimono_2

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