雑魚スキルで逃げ延びる

夏伐

雑魚スキルで逃げ延びる

 集落近くの森の中。


 一人の少女の前に巨大な化け物が現れた。


 化け物は鋭い爪を持っており、牙は既に獲物の血で濡れていた。人間の何倍もの大きさがある、その姿に少女は体を震わせた。


 そして、彼女は苦し紛れに自らのスキルを化け物に使った。


 生活で何の役にも立たない、人間関係でバカにされど人から羨まれることはない。


 スキルを使った直後に、少女は化け物を背にして走り出した。


 集落に逃げ延びようとする彼女を、化け物が追う。が、次の瞬間、化け物は地面に崩れ落ちていた。


 『転倒』――ただ転ばせる。


 それだけのスキルで、彼女は今まで魔の森と言われるこの場所から何度も逃げ延びてきたのだった。


 貴重な食料を採取してくる少女は、スキルの面では馬鹿にされつつも村人からは頼りになる存在として一定の敬意をもって扱われていた。


 今回遭遇した化け物に出会ったのも、これが初めてではない。


 何度、人間が敵うことがないであろう化け物に出会ったとしても諦めることなく、少女は毎日、日々の生活のために魔の森へと通うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雑魚スキルで逃げ延びる 夏伐 @brs83875an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ