トランスヒューマンアイドルによる仁義なき戦い
太融寺智代
第1話「トランスヒューマンアイドルとは何か(前)」
かつてアイドルは過去3度にわたり、世代交代を行ってきた。
第1世代は、生得的身体に生得的人格を備えたキャラクター性を売りにする、いわば「3次元的な」アイドルのことである。僕自身、歴史の教科書でしか見たことが無く、にわかには信じられない事象であるが、
この世代のアイドルは、やれ会いに行けるだとか永遠の17歳だとか、そういった売り文句でファンから金銭を巻き上げていたのだというから驚きである。生得的身体は、生得的人格が備わるまで親が一時的に管理するだけのモノであり、一般的に15歳頃には、容姿も運動神経も感覚器官も全て、管理者権限は自己に移動するというのに。
さすれば、生得的身体を自由に改造することも可能であるし、更に言えば、自律式独立知性を共通サーバーに登録すれば、自我はそこで保存される以上、身体の管理者権限を放棄し、永遠の命を手にすることだってできるというのに。
第2世代は、人工的仮想身体に生得的人格を備えたキャラクター性を売りにする、いわば「2.5次元的な」アイドルのことである。これは、2010年代頃から急速に拡大し、COVID19の蔓延に伴い隆盛を極めたことでも知られている。
この世代のアイドルは、同時接続を可能とする動画サイトやプラットフォームを用いてファンから金銭を巻き上げていた。一見すると、第1世代が抱えていた肉体的弱点を克服したと考えられるが、そこまで単純な問題では無かった。
というのも、生得的人格には自律式独立知性が備わっておらず、世界各国の法律やマナーを自動的にアップデートすることができない為、個人の発言が世界的な問題に発展するといったケースが多発した。また、個人のスケジュールが活動に影響を及ぼすという観点からも、第1世代より多角的に活動できるだけで、頻度はそのままであるという課題が浮き彫りになった。
第3世代は、人工的仮想身体に人工的自律知性を備えたキャラクター性を売りにする、いわば「完全2次元的な」アイドルのことである。2020年代後半から徐々に拡大し、完全にプログラムの管理下で統制されたアイドルである為、常軌を逸することは一切無い。また、この頃には合成音声技術も不気味の谷を越えていた為、好きな楽曲データを即興で歌わせることも可能であった。
この世代のアイドルは、ファンの持つディバイスに直接干渉することができ、またファンの方からもアイドルに干渉することができるという利点があった。つまり、ファンの理想通りのアイドルをファン自身で形成することができた。例えば、精神疾患を持つ患者に対してセラピストとしての役割を与えたり、醜悪な生得的身体を持つ人間に対して伴侶としての役割を与えたり、用途は様々であった。
一見すると、完成されたアイドル像のように見えたこの第3世代にも問題点があった。2035年、中国が開発した第3世代アイドル「零
勿論これは、自律式独立知性による情報開示設定システムが開発される前であった為、被害が甚大になったというだけの話である。しかし、この事件を境に、第3世代アイドルの信用失墜はおろか、ファンがアイドルデータをダウンロードするという特性上、それを悪用する事態にまで発展した。
その結果、各国で情報・技術革命が起こり軍事力や医療システムの飛躍的向上を招いた。それにより2042年誕生したのが、「
自律式独立知性は個人の記憶領域を常にバックアップし、かつ世界各国の地理・歴史・政治・経済をアップデートし、数学・科学においても自動演算を行う。妥当性のある意思決定は常に自律式独立知性が行い、教育機会の喪失による労働コスト削減にも貢献した。
また、この頃になると政治は人工的自立知性に一任する国が続出し、医療現場をはじめ、様々な場面において人間を必要とする業種が失われた。その結果、世界各国で「人体不要論」が(主に環境保護団体の圧力による部分はあるが)唱えられ、2055年には、世界の物理的人口は約25憶人にまで減少した。
そんな中、アイドルは第4世代へと進化を遂げた。
トランスヒューマンアイドルによる仁義なき戦い 太融寺智代 @ryossideriver
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