第4話

彼は行ってしまった。アメリカへ。




『ありつつも 君をば待たむ うち靡く わが黒髪に 霜の置くまで』



〈意味〉


このまま、恋しいあなたを待ちます。揺れる私の黒髪に、霜が置くまで(白髪が混じるまで)



あの告白から、今の自分の気持ちを和歌にする癖がついてしまった。



来ないと分かってるのに、やっぱり会いたくて、信じて待ってしまう私は馬鹿なのだろうか。



たとえそうであったとしても、


いつまでも待ち続けたいと私は思う。



ただ一つ確かなことは、あの黄金の日々は終わりがあるから輝いていられるということだけだ。



『パチッ』いつもなら重りがのったように重いはずの目蓋が勢いよく開いた。グーっとお腹が声をあげないことからも、もう彼女と会えなくなってしまったことの実感がわいてくる。


実感がわいてくると共に、寂しさと愛おしさの涙が蛇口から吹き出す水のように目からこぼれ落ちる。


こうしてはいられないと、二年間の間僕は研修に没頭した。





※2年後



滑走路が見えてきた。日本の土地にどんどん近づいて行く。税関を通って待ち合わせ場所に向かう。彼女の腕には、あのときにプレゼントした時計がつけられていた。僕たちのあの日々も、そこに刻まれている。今日も時計は二人の時間を刻み続ける。


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さよならと和歌 旬なトマト @shuntoma

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