第3話

1年前の私は、人間関係なんてくだらないと思っていた。


私は昔から和歌が好きだった。そして昔、その事を友達に話したことがある。でもその子はそんな私の話を一蹴したんだ。


私はそこでふと思った。ほんとの友達なんていないんじゃないのかって。


だって、あんなに仲良くしていた友達にも自分の好きなものを受け入れてもらえなかったんだから。


だから、それからの私はうわべだけの友達を作ってなんとなく日々を過ごしてきた。



そう、彼に出会うまでは。



あの歓迎会でのこと、私は彼の隣の席になった。


匂いに酔っぱらってしまった彼は、ひとりでに自分が和歌が好きだと語りだし、


『和歌好きに悪いひとはいないよ』と言ったんだ。



自分の趣味を肯定してくれる人に出会えて、私はすごく救われた。


だからこそ、お近づきになりたい。そう思ってた。



そして今、そんな彼に告白された。すかさず私も返事をしたけど、そのあと彼は言いにくそうに口を開いた。



『すごく嬉しいんだけど…』



『何?どうしたの?』


なにかとんでもない言葉が飛び出してくる予感がして、ごくりと唾を飲んだ。



『あの、うちの大学がやってる海外研修あるじゃん。』



『俺あれに参加することになってるんだ。』



私はなんだ。と肩をなでおろした。


『悠輝ならそうだと思ってたよ。』


『だって凄い国語できるんだもん!』



さっきまで聞こえていなかったセミの合唱が再び鳴り始める。それと同時に、肩に乗った重い葛藤が消えていく感じがした。




ということで、それから俺たちのさよならまでのカウントダウンが始まった。



ハロウィーン・月見などなど、いろんな行事を一緒に過ごした私たちは、時間の流れの早さに驚くばかりだった。



なにせ、もう今日は12月24日のクリスマスイブだ。彼女と過ごす行事はどれも最初で最後の良い思い出になっているけど、同時に寂しさと焦りが募る。



彼女と付き合うまでの間、自分はどれだけ無駄な時間を過ごしていたのかと。



だけどもう後戻りはできない。今の俺にできることは、終わりがあるから幸せだと思えるんだと信じて、一分一秒でも濃い時間を彼女と過ごすだけだ。



一緒に遊園地に行って、彼女とイルミネーションを見た。フィナーレの瞬間に僕は彼女の腕に時計を付ける。僕たちの残された時間を刻んでくれと願いを込めて。




そんなこんなであっという間に年が開けた。二人で初詣に行って、『あと半年間、何事もなく過ごせますように。』



そう願ってきた。



そして2月24日、僕の誕生日。


25日、彼女の誕生日。



僕らのキューピットである優斗と遥太を俺の部屋に招いて、日にちを跨いではしゃぎまくった。



4月。



俺たちが大学に入ってからもう1年がたった。


最初の頃は、



『どうせいつも通り長い一年になるはずだ。待ち遠しい。』



と思っていたのに、今となっては何年あっても足りないと思うくらい早く感じる。


改めて時間の流れの早さを実感した。



そしてとうとう8月30日。


僕が告白をしたあの公園で今お菓子を片手に雑談をしている。



『とうとう明日だね。寂しいけど…』



『そうだな。まあ、終わりがなかったらこんなに充実した日々は過ごせてなかっただろうな。』



『ここは二人の思い出の場所だからな、最後の日がここでよかった。』



そう言った時、ふと



そうすれば、きっと彼女のことを忘れることはないはずだ。



『どうしたの?』と顔を覗き込む彼女に、



『今日までありがとう!』そう伝えた。

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