不機嫌なチャーチル

1940年1月1日 ケープ共和国 総督府

 この日、ケープ総督であるチャーチルは非常に機嫌が悪かった。いや、長い僻地生活で元々機嫌は悪かったが、今日はそれ以上に悪かった。何回目か分からない最悪な新年の恒例行事である簡易的な国勢調査を行った結果、東部の原住民国家であるレソト王国とズールー同胞団が度々こちらに襲撃を仕掛けてくる。いつ来るか分からない襲撃に国境警備員も疲れ果てている。また、国境こそは接していないものの、北のオランダ系のトランスヴァ―ル共和国も問題だ。向こう側に大量の資源が眠っている。対して、こちらは全く取れない。強いて言うならば、ダイヤモンドぐらいだ。それを利用してとんでもない高値で売りつけてくる。そのせいで財政がひっ迫している。そのせいで国内産業も発展しない。それ以降はこの繰り返しという最悪のパターンに今、陥っている。

 チャーチル「国内産業の発展も行わなければな……」

 彼が執務室の椅子に掛けたとき、一枚の紙が机の上に置いてあった。どうやら本国からの手紙らしい。職員の誰かが届けてくれたのだろうか。彼はそれを読んでみた。


 拝啓 ウィンストン・チャーチル様


 この度はケープ総督就任20周年をお祝いさせていただきます。あなたのガリポリでの無謀な作戦によって失われた多くの兵士達も今のあなたの無様な姿をご覧になれば、きっと大変喜ばしくお思いになるでしょう。さて、前回来ました産業発展のための支援増大についてですが、現在、担当の課が立て込んでおりまして、つきましては私の方から言わせていただきます。

 単刀直入に申し上げますと、この件に関しては後ろ向きに考えさせていただきます。あなたもご存知とは思いますが、現在、共産ドイツとソビエトによる極悪非道な行為を阻止するためにそちらの方が優先となっております。また、もし仮に余裕ができたとしても、そちらの方に回すつもりはございませんのでご了承下さい。


 敬具 ピーター・ウィルソン


 チャーチル「……よくも敬語だけでここまで罵倒できるものだな。」

 彼は大きなため息をついた。本国からの支援がダメ。となると自力だけで発展させなければならない。しかし、資源がない。となると他の資源を持っている国へ侵攻しなければならない。しかし、軍はガリポリの二の舞になるからと戦争を拒否。彼の機嫌は今までで一番最悪だ。この状態でいったい何ができる?

 ああ、神よ!あなたはニーチェの言う通り、本当にお亡くなりになられたのですか!それとも、私めに何か問題が?直ぐにお直ししますので、どうか、どうか、見捨てるのだけはおやめください!

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二羽の赤鷲 Yuusaさんの産業廃棄物最終処理場 @YUSA0190

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