いまを 生きる あなたへ 続 贈る詩50

 前回、心に入ってきて良かったと思った詩集、二瓶弘行氏の『いまを 生きる あなたへ 贈る詩50』、その「続」を見つけたので手に取った。

 『いまを 生きる あなたへ 続 贈る詩50』、期待を胸に。



 厳選された50の詩が収録されている。

 今回も良い詩がたくさんあったが、その中からまた、3つの詩を取り上げたい。



【Ⅰ】

冬は   高見 順


冬は

手から冷える時と

足から冷える時とがある


悲しみは

いつも真すぐ心に来る




 ひとの心は冷える。

 この詩を読んで、私の亡き友人がよんだ詩を、思い出させてくれた。

 彼女は、「灰色の視界は爪先から凍てついていく」とよんでいた。



【Ⅱ】

わたしを束ねないで   新川 和江


わたしを束ねないで

あらせいとうの花のように

白い葱のように

束ねないでください わたしは稲穂

秋 太地が胸を焦がす

見渡すかぎりの金色の稲穂


わたしを止めないで

標本箱の昆虫のように

高原からきた絵葉書のように

止めないでください わたしは羽撃き

こやみなく空のひろさをかいさぐっている

目には見えないつばさの音


わたしを注がないで

日常性に薄められた牛乳のように

ぬるい酒のように

注がないでください わたしは海

夜 とほうもなく満ちている

苦い潮 ふちのない水


わたしを名付けないで

娘という名 妻という名

重々しい母という名でしつらえた座に

坐りきりにさせないでください わたしは風

りんごの木と

泉のありかを知っている風


わたしを区切らないで

,や.いくつかの段落

そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには

こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章

川と同じに

はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩




 2つめは新川和江氏の『わたしを束ねないで』。

 小学校で習う有名な詩。私は小学校の頃、クラスメイトで分担して、暗唱して発表させられた記憶がある。

 当時はピンと来なかった単語の羅列たち。それが、年を経て、その自由な響きに魅了された。

 「金色の稲穂」「つばさの音」「海」「風」という壮大な世界が見えた。



【Ⅲ】

名づけられた葉   新川 和江


ポプラの木には ポプラの葉

何千何万芽をふいて

緑の小さな手をひろげ

いっしんにひらひらさせても

ひとつひとつのてのひらに

載せられる名はみな同じ<ポプラの葉>


わたしも

いちまいの葉にすぎないけれど

あつい血の樹液をもつ

にんげんの歴史の幹から分かれた小枝に

不安げにしがみついた

おさない葉っぱにすぎないけれど

わたしは呼ばれる

わたしだけの名で 朝に夕に


だからわたし 考えなければならない

誰のまねでもない

葉脈の走らせ方を 刻みのいれ方を

せいいっぱい緑をかがやかせて

うつくしく散る方を

名づけられた葉なのだから 考えなければならない

どんなに風がつよくとも




 3つ目も、新川和江氏の詩を選んでしまった。

 これも小学生の頃、暗記させられた詩だ。


 子どもの頃は全く気付かなかったが、「てのひらにのせられる名」が「乗せられる」ではなくて「載せられる」であった。てのひらの上に乗るのではなく、てのひらに掲載される名。


 わたしも「にんげんの歴史の幹から分かれた小枝にしがみついたいちまいの葉っぱ」。

「せいいっぱい緑をかがやかせて、美しく散る法を考えなければならない」、どれだけ風が強くても。


 にんげんの軌跡をよんでいる。

 歴史の上にある、わたしという小さな1枚の葉。

 こんなちっぽけな1人1人だけど、自分を輝かせる生き方を、そして、美しい終わり方を、みな考えなければならない。

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