147.
「じゃあ俺は
「お疲れ。みんな気を付けて帰ってね」
「私たちも帰りますね。お疲れ様でーす」
「お疲れ様です!」
会計を終えて、松野さんと
「ん、
「ありがとうね、今日送ってもらっちゃって」
「良いって良いって。ついでだから」
前に約束した通り、今日の帰りは若葉ちゃんの車に乗せてもらう。電車より楽だからありがたい。
「そういえば。明日だっけ?
「うん、明日……」
それが頭にあるから今日はいまいち酔えなかった。この前みたいになっても困るから逆に良いんだけど。もうお酒のことで彩織に怒られたくないし……。
「修羅場だねぇ。モテる女は大変だ」
「双葉さんに言われたくないし……」
「そうかな。私は揉めたことないよ? 恋愛関係で」
「う……」
確かに言われてみれば楓さんといい、彩織といい、修羅の道を歩んでいる気がする。如何せん壁が分厚くて高い。どうしても私の恋愛は周りの反応が付いて回る。それがひどく息苦しい。
「彩織ちゃんが最初の相手ってわけじゃないでしょ?
「最初じゃないけど……。ていうか、別にモテないし」
「またまた。高校の時、結構いたよ? 藤代さんのことが好きって言ってる男の子」
「え。なにそれ知らない。聞いたことない話だ……」
「誰も本人に伝える度胸がなかったんだろうね。あの頃の藤代さんは……なんていうか、少し怖い雰囲気だったから」
「怖い? 変に制服を着崩したり、学校サボったりなんかしてないよ?」
「そうじゃなくて。うーん……なんて言えば良いのかな。ダウナー系っていうの? 話しかけても返事してもらえなさそうっていうか。なんだか一人だけ大人っぽかったよ。他の先輩たちは良い意味で高校生してた。だけど藤代さんの目、顔つきは大人だった」
「それは……」
高校生の時は色々あったから。いや、正しくは高校生に上がる前からか。
お母さんが亡くなってからずっと家族との折り合いが悪い。就職して家を飛び出してからは一度も帰っていない気がする。
……別に帰りたいなんて思わないけど、あんな家。
「言いたくなかったら無理に言わなくて良いよ」
「ごめん……。そうする」
私の苦い
「……あ。あれじゃない? 若葉ちゃんの車」
「本当だ! 行こ行こ!」
微妙な空気を変えるためか、双葉さんは私の腕を引いて赤い軽自動車に駆け寄った。
「ごめんなさい。少し遅くなりました。信号に引っ掛かっちゃって」
「良いの良いの。さっきお店を出たところだから」
流れるように双葉さんが後部座席に座り、その隣に私も座った。
扉と鍵を閉め、車は再び走り始める。
「今日は大丈夫でした?」
「大丈夫って、なんの話?」
「うちの先輩が酔って迷惑をかけていませんでしたか? 藤代さん」
「あー……。今日は大丈夫だったよ。三杯しか飲んでないし。ね?」
「ちゃんとセーブしながら飲んでたから大丈夫ですぅー!」
自分の酒癖の話だと途中で気づいた双葉さんが大袈裟に反論する。前科者だからな、双葉さん。……いや、私もか。
「それなら良かった。先輩、楽しかった?」
「うん!」
子どもみたいに元気よく返事をした双葉さんを見て、若葉ちゃんは目を細めた。前も思ったけど、どっちが年上か分かったもんじゃないな。
「汐見くんもいたって聞いたんですけど……」
「いたよー。若手チームの飲み会だからね」
「そっか。若葉ちゃんと汐見くんは同級生?」
「そうです。三年間同じクラスでした」
それはすごい。一年生も二年生もクラス替えがあるから、友達とずっと同じクラスなんてそうそうない。
少なくとも私は三年も同じクラスだった友達なんていない……はず。
「仲が良いんだ。汐見くんは双葉さんとも仲が良いって言ってたし、よく三人で遊んでたの?」
「六人、ですかね。その三人とあともう一人同じクラスの子と部活の先輩、あと別の学校の子。六人でご飯に行ったり……先輩が卒業する前に遊園地も行きましたっけ」
「行ったねー。電車で一時間かけて。あの頃は若かった……」
他の学校にも仲が良い子がいたんだ。不思議な集まりだな……。出身中学が同じ、とか……? でも、双葉さんと若葉ちゃんは中学が別だと言っていた。それはないか……。
「どうしたの、藤代さん」
「え……あ、うん。学年も違うし、学校も違うってすごいなって。どうやって仲良くなったの? 同じ中学ってわけじゃないよね?」
それを聞くと双葉さんが遠くを見つめるような目でポツリと呟いた。
「…………戦った結果、仲良くなったみたいな?」
「えっ」
そんな物騒なワードが出てくるとは思わず、つい大きな声を上げてしまった。戦って……? どういうこと?
「先輩、その話するの恥ずかしいんですけど……」
「事実じゃん! 私は戦って、勝ったんだよ!」
全然分からない。なんでその五人で戦ったのか、最終的に双葉さんが一人勝ちしたのか。若葉ちゃんはなんの話か分かってるみたいだけど、当事者じゃないから私には分からない。気になる……。
「藤代さんの家に着くまで時間あるし。私たちの高校時代の話をしようか」
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