148.
「高校時代の話って……」
「うん。私が高三、
ということは私は社会人一年目の時か。ちょうど
「そもそも。二人はどうやって知り合ったの? 違う部活だよね?」
「そうです。私は
「んーと、若葉ちゃんの部活の先輩が私の同級生で、そこ繋がりが最初かな?」
それを聞くと納得だ。二つ学年が離れていても共通の知り合いを通して話すことがあったのだろう。
「最初の頃は千秋先輩とそこまで仲良くなかったんですけど、色々あってよく喋るようになりました」
「色々……?」
「すみません、その話は私からは言えないです……」
それを了解し、若葉ちゃんに話の続きを促した。
「その、さっき言ってた戦いっていうのは……これ、私が言うの? 千秋先輩が説明してよぉ……」
「しょうがないなー! 私が続き話す!」
若葉ちゃんからバトンを受け取り、双葉さんは嬉々として語り出した。少し酔ってるな、この子。普段よりかなりテンションが高い。
「私に告白してきたのは若葉ちゃんだったのに、気づいたら争奪戦になってたんだよ!」
ビシッと言い切ったものの、私にはいまいち伝わっていない。つまり……どういうこと?
「双葉さんたちは両想いだったけど、他にも若葉ちゃんのことを好きな人がいたってこと?」
「ちょっと違う! 元々みんな若葉ちゃんのことが好きだったんだよ」
「……?」
ますます分からない。どういうことなの……。
「みんな若葉ちゃんが好きで告白したけど振られて、若葉ちゃんは私に好きだって告白してきたの。だけどその時はそんなふうに思ってなかったから断ったんだよ」
「え、双葉さんが振ったの? 若葉ちゃんを?」
「そう!」
今のデレデレ具合からは想像出来ないけど、若葉ちゃんが照れながら頷いたからきっと事実だ。若葉ちゃんを振る双葉さんなんて想像出来ないな……。
「でも諦めないって若葉ちゃんは言ってた。その言葉通りずっと私に話しかけてきてくれたよ。卒業までずっとね」
「だって時間が限られてたし……」
「いつの間にか私も若葉ちゃんのことが好きになって。今度は私から言ったんだよ、好きですって」
「それで両想いになって付き合ったんだ?」
「そう! だけどその後も戦いは続いてね……」
戦いって……さっきの他のみんなも若葉ちゃんが好きだったって話かな。みんなって
「若葉ちゃんが私に対してそうだったように、他のみんなも諦めないって。本当に大変だった……」
「双葉さんは両想いだったんでしょ? 何がそんなに大変だったの?」
「だって汐見くんたちは同じクラスなんだもんー! 若葉ちゃんと一緒にご飯食べようと思って誘いに行ったら、もう机にお弁当広げてたし!」
「あー……」
双葉さんが何を言いたいかだいたい分かった。汐見くんたちは若葉ちゃんと同じクラスだから何かと一緒にいて、それを見て嫉妬したと。そういうわけだ。
「放課後くらい私に譲ってくれれば良かったのに、クラスの打ち上げとかテスト対策とか言って!
「でも違う学校の子もいたんだよね? その子が一番離れてて悔しかったんじゃないの?」
「
たくさん名前が挙がって、だんだん収拾がつかなくなってきた。双葉さんのテンションも上がりっぱなしだ。
だけど……とても楽しくて、代えがたい良い思い出なんだと思う。だってさっきから双葉さんも若葉ちゃんもずっと笑顔だから。
色々と思うところがあるだろうが、二人にとって良い記憶に違いないのだ。
「ねえ。これってもしかして……惚気?」
「ん? …………そうとも言う?」
双葉さんは破顔し、声を上げて笑い出した。それを聞いた若葉ちゃんもつられて笑う。
「ごめんごめん。でもさ、これでおあいこだよ?」
「どういうこと?」
「会社では藤代さんの惚気話聞いてるわけだし」
「あれは惚気じゃな——」
「え、私も聞きたいです。
しまった、矛先が私に向いた。若葉ちゃんも興味津々だ。信号機を待ちつつ、話の続きを促してくる。双葉さんも止める気配がないし……。
「きっかけとか、いつから付き合ってるのかとか。そういうの聞きたいです」
「私たちの話なんて聞いても面白くない……って、双葉さんからは何も聞いてないの?」
「私が勝手に話すわけないじゃん。そういう話は本人が良いと思った相手にすれば良いと思うし」
てっきり双葉さんが話しているかと思っていたから驚いた。口が堅いほうだとは思っていたけど……。
双葉さんのこういうところが好きだ。一緒にいて安心する。私にとって、会社の中で一番安心出来る存在だ。
「じゃあちょっとだけ。私たちの話もするね——」
全てを話すことは出来ない。
彩織の事情、私の事情。どれだけ心を許していてもまだ言えないことはある。
だからそれ以外を話そうと思う。この二人になら大丈夫だ——
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