146.
「報告会お疲れ様でした。乾杯!」
「乾杯!」
午後の仕事を全て乗り越え、私たちは駅前の鉄板焼き屋さんに来ている。
「種類多いじゃん、このお店! めっちゃ良い!」
「汐見、よくこの店知ってたなぁ。駅から近いけど、裏通りにあるから今まで知らなかったわ」
「高校の時の友達と来たことがあるんです。お酒は飲めないけど」
ファーストドリンクは大人組はビール、未成年組はウーロン茶を注文した。汐見くんと
「もう報告会で燃え尽きちゃって、午後の仕事がしんどかったです……」
「分かる! 報告会がある日は午後が辛いよねー」
「私なんて午後は生産間に合わないから、ラインで作業してましたよ!」
「えー! それはヤバイ!」
女が三人寄ればなんとやら。
お酒が入っているからかみんないつもよりテンションが高い。年齢も立場も気にせず、楽しそうに騒いでいる。
今日は無礼講だから。最初に一番年上の
「え、汐見と双葉さんは高校の時からの知り合いなの?」
「そうなんです。ちょくちょくご飯とか行ってましたね」
「私が三年生の時に汐見くんたちが一年生だったんですよ。共通の友達がいたので一緒に会う機会が多くて」
山木さんたちは私たちの意外な接点に驚いている。私も双葉さんとは一応高校時代から面識があったし、汐見くんに至ってはご飯に行くほど仲が良い先輩だ。
「へぇ、先輩後輩でご飯行くのなんか良いな。……ん? 二人は付き合ってるのか?」
「私と汐見くんですか? 付き合ってないですよ、それぞれ相手いますから」
「え、双葉さん彼氏いんの! マジかぁ……」
双葉さんの唐突なカミングアウトを聞いて、山木さんはがっくりと肩を落とした。
「いやいや。双葉さんは超可愛くてモテモテですから。
「そうだけどさぁ……」
「山木さんにはもっとこう……庶民的な、元気いっぱいな女の子がお似合いですよ」
「えぇ、そんな子いなくね……?」
北山さんの健気なアピールにも気づかず、山木さんは右手に持っていたビールを流し込む。
というか、二人でいる時は名前で呼んでるんだ。山木さんの下の名前初めて知ったな。
「じゃあ
「もー。お酒の席だからってそんな質問は良くないですよー。まあ私は藤代さんと仲が良いのでそのへんのことはバッチリ知ってますけど」
「え、私知らない……! どうなんですか、藤代さん!」
「えー……」
山木さんにマウントを取ったつもりだろうけど、何故か足立さんが声を上げた。
北山さんの隣に座っていた足立さんが身を乗り出して、私に問い詰める。
「いる、けど……」
「写真見たいですー!」
「ないない。写真とか無いから」
嘘だ。
ここにいるみんなと連絡先を交換してしまっているから見られてしまう。
いつか本当のことを話せたら。私が女の子と付き合っていることを公言出来る日が来たら設定したいと思う。……今はまだそんな勇気は持てない。
「それより……さっきさらっと流されちゃったけど汐見くんも付き合ってる人がいるの?」
「あ。そうじゃん。汐見くんの話も聞きたーい!」
「え、僕ですか?」
北山さんと足立さんが食いついてくれてほっとした。汐見くんには悪いが、こうなったらみんな道連れだ……!
「聞きたい! 高校の時、彼女いるって言ってったっけ……?」
「高校の時はいなかったよ。会社に入ってから」
「誰、誰! 同じ会社の人?」
足立さんと北山さんが交互に問い詰め、汐見くんは苦笑しながらゆっくりと口を開いた。
「高校の時の同級生です。卒業してから何度かご飯に行って、その流れで」
「やっぱ、そうなるよなぁ。会社入ってからって出会い無くね?」
「そうっすねぇ。俺も奥さん、高校の同級生ですし」
「え、
「こいつは結婚してるし、子供もいるぞ。なぁ?」
「写真あるよ。これ、先月のお遊戯会の写真なんだけど」
松野さんは照れながら写真を見せてくれた。子供と奥さんが笑顔で写っている幸せそうな写真。
さっきまで彼氏がと騒いでいた北山さんたちもほっこりしながらその写真を見ている。
「ね。藤代さん」
「なに?」
ちびちびとビールに口をつけていると、隣に座る双葉さんが話しかけてきた。
「こういう飲み会またやろうよ。女の子だけどでも良いし、みんなで集まっても良いし」
「確かに。こういう集まり結構楽しいかも……」
前は会社の飲み会なんて一度も行かなかった。参加費が高いし、喋る人がいないし。
でもこんなふうに楽しめるならまた行きたいかも……。
「また企画しよ。若い子集めたり、野中さんたちも呼んだり。楽しみだね!」
「うん……!」
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