134.
「
「あ、本当だ。もうそんな時間か……」
ずっと明後日の報告会のことが引っ掛かったまま、日が暮れてしまった。
あと数十分で定時。そろそろホワイトボード前に集合する時間だ。
「集合ありがとうございます。進捗どうですか?」
「加工工程終わった! あとは作業者から感想貰うだけ!」
「切断工程も同じく。是正は完了したよ」
「ありがとう。じゃあ全工程の是正は終わってて、明日は最後の確認に時間を使いましょう。作業者の方にヒヤリングして、問題があればすぐに直すようにお願いします」
ホワイトボードの十七時を消し、九時集合と書き直した。
「終わりが見えてきたなぁ」
「明日は
背を向けている間にみんな、思い思いの話をしている。
この緩んだ空気の中で報告会の話をするのは忍びないが、決めておかないといけない……。
「あともう一つ。今のうちに決めておきたいんですけど……」
振り向き、そう言って私が話し出すと雑談を止め、私へと視線を注いだ。
「現場報告は多くて二人。誰がやります……?」
「……」
あえて指名せず、立候補を促してみたが誰も手は挙がらない。
そうだろうな、私も同じ立場だったら手なんて挙げられない。みんなと同じように黙することしか出来ない——
「——じゃあ、僕やります」
「…………え?」
誰も手を挙げるわけがない。そう思って諦めかけていた時、一番後ろに立っていた
「良いの?」
「はい。報告したことないので、良い練習になるかなって。言葉に詰まったら助けてくださいね」
「もちろん。……ありがとう」
これで一人は決まり。あと一人はどうしようかな……。
「俺や松野、
「じゃあ
「え、私ですか……」
まさか自分が。足立さんは不安そうな顔で私を見つめた。逃げたい気持ちがひしひしと伝わる。
だけどここは、心を鬼にして……。
「せっかくだから汐見くんと足立さんにお願いしたいな。二人とも同期だし、良い練習だと思って、さ……」
「……分かりました。でもちゃんと助けてくださいね……?」
同期だから、と言われてしまっては足立さんも断れない。我ながら、卑怯な一言だった。
「ごめんね。二人とも悪いけどよろしく頼むよ」
「はい。報告する内容は僕たちが決めるんですか?」
「うん。話しやすい内容を選んでくれれば良いよ。明日、時間を取って三人で話そうか」
「よろしくお願いします」
「いいえ、こちらこそ」
安全実践の話はこんなところか。定時まで残り数分。ここから自分の職場に歩けばちょうど良い頃合いだ。
だけど最後に一つ。仕事の話じゃないけど、今ここで話しておきたい。
「……あの、金曜日なんだけど」
私が話し始めると再び視線が刺さる。
「仕事じゃないし、強制じゃないから。断ってもらって全然構わないんですけど……」
しどろもどろに言葉を紡ぐ。私がこれから何を話すか、誰も読み取れずポカンとした顔で固まっている。
唯一それを知る双葉さんだけが頷きながら話に耳を傾けていた。
「みんなで飲みに行きませんか。実践お疲れ様でした、みたいな……。あの、本当に全然、用事とかあったら断ってもらって構わない、です……」
だんだんと言葉は弱まり、最後は囁くような声だった。
だけど私を取り囲むようにして立っていたみんなには、十分聞こえたようで。驚きに目を丸くしていた。
「私は参加するよー! 金曜日の夜は時間を気にせずゆっくりできるし」
双葉さんが一番に名乗りでてくれてホッとした。このまま静まり返った空間にいるのは耐えられなかっただろうから。
「俺も暇だし、行けるぞ」
「俺も。嫁に許可貰えたら行けるよ」
「飲み会と聞いて!」
次々に参加の声が上がり、気づけば全員参加が決まっていた。
ラインで作業していたはずの北山さんも駆けつけて参加を表明してくれたし、七人全員で飲みに行くことが決まった。
「場所は上大沢駅前で良いですか? 場所的に無理な人います?」
「大丈夫です」
「松野、お前嫁に送ってもらうんだろ? 俺も乗せてくれ」
「良いですよ。ただ、煙草は厳禁ですからね、うちの車」
「お店ってもう決まってますか? 美味しい鉄板焼きのお店があるんですけど……」
思った以上にみんな乗り気で積極的で安心した。一人、二人くらい断る人がいてもおかしくないと思っていたのに。
「藤代さん。お店今のうちに決めようよ。早く予約しないと席埋まっちゃうし」
「うん、そうだね。さっきの汐見くんが言ってた鉄板焼きのお店が気になるな」
「汐見くん。さっきのお店、もう一回見せて!」
七人揃って飲み会。歳が近いみんなと仲良くなるチャンスでもある。すごく、楽しみだ——
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