13.

「野中チーム集合!」


 十五時を前に集合がかかった。急いで野中のなかさんの下に向かう。


「今のところで良いから発見件数教えてもらえる? 俺、十一件」

「俺は十三件」

「わ、二人とも流石ですね」


 双葉ふたばさん褒められて二人は上機嫌になる。ノルマ五件に対しての十件超えは素直に流石だと思う。

 二人の反応を見て双葉さんはにやりと口元を緩ませた。


「私は十六件です」

「え」

「ちなみに藤代ふじしろさんは十五件でしたよ」


 双葉さんが私の分も合わせて報告した。この結果を分かった上で二人を褒めた双葉さんの性格は中々だ。

 私たち二人合わせて三十一件。それだけでチームのノルマを軽く超えている。さっきまで上機嫌だった黒部くろべさんたちはぽかんと固まってしまった。


「まじか、やるな双葉さんたち」

「はー、また双葉に負けたか。藤代さんもすごいね」

「いえ、私は双葉さんに教わっただけです……」

「私が教えたのは問題点を見つけるための観点だけです。それを踏まえての十五件だから藤代さんがすごいんだよ」

「そうかな……」

「もちろんそうだよ。初めてなのにやるなぁ、藤代さん。にしても野中チームは合計五十五件かぁ……。是正ぜせい甲斐がいがあるな」


 野中チームのホワイトボードに大きく五十五件と書かれる。ノルマは二十五件だったのに大した成果だ。

 ちなみに是正ぜせいというのは悪い点を直す、改善するといった意味の言葉だ。日常ではなかなか使わない。私も改善チームに入って初めて知ったくらいだし。

 あと十分で十五時になる。もうじき全体で集合する時間だ。



「藤代さん」

「はい?」


 強面こわもての人、もとい黒部さんが話しかけてきた。今まで喋った事なんて一度もないし、今日の実践研究で話すこともなかった。なんだろう、緊張する。


「さっきの時間、双葉と上手く話せた?」

「上手く……分かりません。双葉さんがたくさん話題振ってくれるから私は何も」

「そうか……。藤代さんが良ければで良いんだけど、これからも双葉と仲良くしてやってほしい」

「……」

「ほら、品質保証課には他に若い女の子いないし。あいつには同期が何人かいるけど色々あってな……。だからたまにこうやって顔を合わせる時だけでも構ってやってくれ」

「……分かりました」


「ちょっと早いけどみんなで集合するみたいですよ、行きましょう? というか二人で何を話してたんです?」

「内緒。なー? 藤代さん」

「はい」

「えー、除け者みたいで嫌なんですけど。藤代さん後でこっそり教えてよ」


 双葉さんが呼びに来て私たちの内緒話は終わった。

 まさか黒部さんから双葉さんと仲良くしてくれ、なんて言われるとは思ってもみなかった。だって彼女は私と違って誰とでも仲良く出来て、友達も多かったから。


「藤代さん! 聞いてる?」

「……聞いてる聞いてる」


 高校の頃をふと思い出していると目の前に双葉さんの顔が。


「ほら、行こう」

「うん」


 なんだ、高校の頃とは全然違う。双葉さんとちゃんと話せるじゃないか、私。

 いや、最初から関わることを諦めて何も知らない、知ろうとしなかったから双葉さんのことが分からなかっただけなのかもしれない。

 双葉さんは思ったより話しやすい人だった。




「時間早いですけど、始めます。このホワイトボードにチーム全体の件数と各メンバーごとの件数を書いてください。向かって右側が多井田おいだチーム、左側が野中チームでお願いします」

「双葉さんと藤代さん頼んでいい?」

「野中さん、めっちゃ字下手ですもんね」

「うるせえ! 多井田ァ!」


 双葉さんとホワイトボードの前に出る。隣を見ると多井田チームからは松野まつのさんと菱木ひしきさんが代表してホワイトボードに書き込んでいた。適材適所、というやつだろう。


「全体で五十五件、と。藤代さん、各メンバーの名前と件数を順番に読んでもらえる?」

「じゃあ野中さんから十一件、黒部さん——」


 さっきチームで集まった時のメモを読み上げる。双葉さんは達筆な字ですらすら書いていく。こんなにきれいな字を書くんだ。




「えっ?」


 全て書き終えたところで多井田さんの素っ頓狂な声が上がる。


「そっち五十五件ですか……」

「多井田チームは何件?」


 にやにやと意地の悪い顔で野中さんが多井田さんを追い詰める。


「四十一件です……」

「これは野中チームの勝ちだな」

「いや野中さんの発見件数チーム最少じゃないですか!」

「チームとしてはこっちのほうが多いわ!」

「はいはい、どっちのチームもノルマ達成だろ。多井田、進行して」

「あ、すみません。一旦十五時から休憩挟むんで、十五時十分からもう一度集合してください。その後の流れはその時に話します。じゃあ、解散で」


 ちょうど休憩時間になり、チャイムが鳴った。それに合わせるようにぞろぞろと休憩室へ向かって行く。

 私はどうしようかな。


「藤代さん、こっち」

「え?」


 双葉さんに手を引かれ、みんなとは違う方向に歩き出す。

 こっちに休憩所なんてあったっけ?

 



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