第14話 予想
「二人ともいらっしゃい!」
家に入ると
「今日は、こうちゃんはいないのね。あなたたち、いっつも四人一緒なのに珍しい」
渚は、麦茶を配り終えると、持っていたお盆を胸にかかえて頬に指を当てる。
「四人……。そうだよね? 俺たち四人組だよね?」
達哉は確認するように渚に尋ねる。
「なによ。今更。まさくん、さっちゃん、こうちゃん、それにたっちゃんで、きっかり四人でしょ? かなちゃんが、仲間に入れてもらえないって嘆いてたわよ」
「そうなんだけど……。ごめん、ありがとう」
渚の言葉に三人は安堵した。自分たちの記憶が間違っていないことが証明されたような気分だった。
渚は、「おかしな子ね」と首を傾げながら、開け放たれたままのキッチンに戻って行く。
「それで、たっちゃん。大事な話って何?」
麦茶で喉を潤してから雅臣が言った。
「俺、始業式の間中考えてて……。それで、思い出したことがあるんだ」
「思い出したこと?」
紗雪が不思議そうに首をひねる。その様子から、紗雪の方は達哉と違って何か新しいことを思い出したりはしていないことが分かる。それは雅臣も同じようだった。
「うん。こうちゃんをいじめてた奴。そいつって、大野って名前じゃなかった?」
前置きもなく単刀直入に切り出す。達哉には、ある種の確信があった。
「大野……?」
腕を組んだ雅臣がその名前を口にする。一呼吸置いて、勢いよく顔を上げた。
「たしかにっ! それってさ、たっちゃんに告白した子じゃない?」
「自分では言いにくいけど、たぶん、そう」
「そういえば、たっちゃん告白されてたね。大野さんって子だったっけ?」
大野という女の子が、達哉に告白したことをしっかり思い出した雅臣に対して、紗雪は達哉が告白されたことは思い出したようだが、その相手までは思い出せていない。
「大野さんで間違いないよ。……でも、その子って、どんな子だったっけ?」
雅臣の記憶の中でも達哉と同様、大野という女子の具体像までは蘇っていなかった。
「俺もそれは思い出せないんだよ。まさくんもさっちゃんも、やっぱり記憶にない?」
「う〜ん……。たしかにたっちゃんに告白した女子がいて、その子が大野って名前だったのは間違い無いと思うんだけど……。僕もどんな子だったかは思い出せないなぁ~」
「私は……。たっちゃんが告白されたことしか思い出せないよ……」
「やっぱりか……」
二人の返答に達哉は肩を落とした。予想していたこととはいえ、どこかで期待していたから少なからず落胆する。
「あれ……? ちょっと、待って! その大野さんがこうちゃんをいじめてたの!?」
最初の達哉の言葉を思い出した雅臣が、大きな声をあげる。
「しっ。声が大きいよ。母さんが心配しちゃう」
「あぁ……。ごめん」
達哉に言われて雅臣は頭を下げる。それから小声で続けた。
「でも、どうして大野さんがこうちゃんをいじめるの? たっちゃんのことが好きなら、こうちゃんをいじめるのは逆効果な気がするんだけど……。それとこれとは無関係……ってわけじゃないでしょ?」
「本人から聞いたことはない……と思うから、完全に予想だけど。たぶん俺がこっぴどくフったからじゃないかな……」
「その腹いせってこと? それなら尚のこと、刃はたっちゃんに向かないとおかしくない?」
頭の回転が早い雅臣は、達哉の言うことを瞬時に理解し、すぐに疑問点を口にする。
「それは……。そのとおりなんだけど……」
雅臣の疑問にうまく答えることができない達哉は言い淀んでしまった。明確な答えが出せない男子二人に代わって紗雪が答える。
「男の子には、分からないかな? 恋をしているときは、どこまでもいっても好きな人は好きな人なんだよ。大野さんは、どんなフラれ方をしてもたっちゃんのことが好きだったんじゃないかな? だから、たっちゃんと自分の恋路を邪魔する人をなんとかしようとした……とか? ……ごめん、なんにも分かってないのに」
「なるほど。男女で大きな違いがあるとは思わないけど、たしかに、浮気された女性が、彼氏じゃなくて浮気相手の方を責めるっていうの、あるあるな気がする」
雅臣がうなずく。
「それに大野は、俺たちのグループに入れてくれって言ってきたことがあると思う」
「……あったかもしれない。僕たちは、特に理由もなく断ったんだっけ? それでこうちゃんがターゲット……か。一番与し易いこうちゃんを使って、僕たちの関係を壊そうとした……。たっちゃんが言いたいのは、そういうこと?」
「うん。それでさ、その大野って子。リンなんじゃないかって思うんだ」
雅臣と紗雪は言葉を失った。無言のままお互いに顔を見合わせる。
「それってつまり、リンちゃんがこうちゃんをいじめてるってこと?」
おそるおそる尋ねる雅臣に達哉は黙ってうなずいた。
「俺はそうなんじゃないかと思ってる」
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