雨が、止んでしまった。

 ちょっとだけ、残念。まだ、雨を表現できてない。変な止みかただった。もうちょっと、わずかな水滴とか、霧雨とか。そんな感じになると思ってたのに。

 せっかく起動したラップトップ。閉じた。ウクレレ。壁にたてかける。


「ただいま」


 あっ。

 彼が帰ってきた。

 ずぶ濡れだから、タオルを持って玄関まで。走る。


「走ったら危ないぞ」


 大丈夫大丈夫。

 いたいっ。


「ほら。新しいシンセ届いたの、そのままにしてただろ」


 忘れてた。壊れてないかな。


「ありがとう」


 水に濡れた、あなた。雨の匂いがする。


「いや、自分で拭くよ」


 だめです。わたしが拭きます。

 さて。

 お仕事はどうでしたか。


「ただ雨が降ってるだけだった」


 これが彼の口癖。ただ、とか、ただただ、とか。言葉に挟まってくる。


「なんだよ」


 なんでもないです。かわいいなあと思って。


「雨、止んでしまった。もうしわけない」


 なんであなたが謝るんですか。


「そのかわりに、ほら」


 彼が、窓の外を指さす。ひだりて。指環。わたしとおそろい。


「降ってきたぞ」


 わあ。

 雪だ。

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雨音、雨を壊した先に 春嵐 @aiot3110

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